忘れて、忘れないで。

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「忘れてよ」 わたしの願いをふたつも蹴って、生まれ変わったあとでもなんでもない、ただの『もう二度と出会わない』という約束に変えるっていいたいのなら。 わたしも、わたしの最初の願いを貫く。 「約束をしたのが間違いだったんでしょう」 子ども同士の戯言のような、ドラマのセリフを真似たような、そんな約束だと思ってた。 わたしがずっと忘れていたくらい、陳腐で幼稚なものなのだと。 葵衣は違った。 あの頃から、わたしが葵衣への想いを自覚するずっと前から。 葵衣はわたしへの想いが妹へのものではないことに気付いて、わたしよりも上手く、隠そうとしていた。 まんまと優しくて残酷な約束という名の嘘に騙されて、守られていた。 最後くらい、わたしに葵衣を守らせて。 このぬくもりにずっと包まれていられたのなら、それもきっと幸せなのだろう。 葵衣と同じだけのものを背負って、抱えて、この先を生きていくことは、葵衣と離れて生きていくことよりも辛いのかもしれないけれど、わたしはわたしの本心を優先したい。 これまでずっと、自分の心に嘘を吐いて、責めることでわたしを守ってきたから。 「葵衣」 わたしはもう、葵衣と離れることを諦める。 その代わりに、葵衣から、わたしのそばを離れてほしい。 わたしが泣いて縋っても、決して振り向かないで。 わたしが掴んで離さない手を、必ず振り払って。 わたしが叫んで止めない想いを、絶対に振り切って。 弱かった。同じくらい、強かった。 だから、手放さなきゃいけないものを、手放してはいけないものとして認識するようにした。 どうしたって、葵衣とわたしは兄妹であるらしい。 自分を蔑ろにしてでも、お互いを守りたかった。
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