忘れて、忘れないで。

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ずるくてごめんね。 葵衣に世界のすべてをあげたい。 そんな大それた幻想を、どの口が言うのだろう。 わたしに出来るのは、葵衣が躓いて転んでしまいそうな小石を除けたり、葵衣を包む草いきれを飛ばす風を吹かせたり、葵衣が笑っていられるように彼の周りの人が幸せを望むことだけ。 「花奏さえいなきゃよかった」 そんな嘘を吐かせてしまって、ごめんね。 嘘を返せないことも、先に謝っておこうと思う。 どちらも意味は同じだとしても。 いなきゃよかった、なんて言えない。 「葵衣さえいてくれたらよかった」 伝えた途端に一層強く抱き竦められたけれど、わたしはその力に負けないように、強く葵衣の胸を押す。 「忘れて、葵衣」 忘れないで、忘れないで、忘れないで。 叫びそうになるのを堪えて、抱き着きたくなる衝動を抑える。 あと一年は、この一年と同じ過ちを繰り返さないから。 もう、これで、終わりにしよう。
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