信じて、信じないで。

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「心配ならノックじゃなくて声かければいいじゃん」 葵衣が怒っているのが伝わって、怯みかけながらも更に余計な一言を重ねていく。 ここまで来てしまったら、もう後ろには引けない。 「勝手に入るなっていつも言うのは花奏だろ」 「緊急事態ならノックとか声かけの前にドア開けるでしょ、普通」 さっき言ったばかりのことさえ覆して、挙げ句の果てに『普通』とまでつけてしまったことを、瞬時に後悔した。 昔から、ノックもせずにドアを開ける葵衣にうるさく言っていたのはわたしだ。 最近は葵衣がこの部屋に来ることはないから、最後に説教じみたことをしたのは数年前だけれど、半分口癖になっていたからわたしも葵衣も覚えてる。 「もういい」 葵衣の怒りは表情に出にくいけれど、ずっと一緒にいるから、今どんなことを思っているのかは何となく察せてしまう。 わたしが冷静でいられなくなると、葵衣は大抵熱を落ち着かせて一歩引く。 突き放すような態度に、何度心を痛めてきたのかわからない。 後で、ごめんね、と謝ると葵衣はすごく申し訳なさげに謝り返してくるから、いつしか喧嘩はしないように心がけるようになっていたのに。 こんなタイミングで、わたしからふっかけてしまうことになるなんて思わなかった。 「部屋にいるから、何かあったら壁叩けよ」 わけもなく泣きそうになりながら葵衣を見ていたけれど、それだけを残して背中を向けてしまう。 葵衣の手から離れて、ひとりでに閉まるドアの音がやけに大きく聞こえた。 同時に、昔の記憶を漁っていたこともあって、幼い頃の出来事が頭に蘇る。
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