信じて、信じないで。

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翌日、約束は昼過ぎなのにいつも学校に行く時間に目が覚めてしまって、朝からクローゼットの服たちをベッドやラグに広げて頭を抱えていた。 まるで統一性のない上下の組み合わせを何通りと試すけれど、どれもパッとしない。 普段外に出るときのような格好を参考にしようにも、適当なシャツにスキニーパンツ、お気に入りのグレーのパーカーで完成してしまう。 こんなとき、日菜なら簡単に見繕ってしまえるのだろうけれど、その手のセンスがわたしには欠片もない。 「まあ、無難なのでいいか……」 なるべくいつもの自分の姿と重ならないように、もう随分と袖を通していない白のニットとレザー素材のプリーツスカートを合わせる。 スカートは薄い灰色だから、この配色なら間違いないだろう。 パーカーに伸びかけた手を止め、ハイネックのコートを用意しておく。 最寄りの駅までは二十分もかからない。 駅周辺には時間を潰せるような場所がないから、早く着きすぎるように行っても退屈してしまう。 橋田くんの性格からして、約束の時間には十分余裕を持って来ると思うのだけれど。 時計を見ると、約束の時間までは二時間弱も早い。 ベッドに腰掛けていた身体をシーツに倒して、目を閉じる。 昨夜はなかなか寝付けなくて、今朝も早く起きてしまったからか、ニットの温もりに包まれていると眠くなってくる。 一応、家を出る前にかけていたはずのアラームを確かめて、ブランケットを羽織る。 暖房を少し下げて、髪型が崩れないように慎重に眠る体勢をとると、すぐに意識が持っていかれる感覚が身体を包み、眠ってしまっていた。 アラーム音に引き摺り戻されて目が覚め、寝ている間の身動きでついた服の皺を伸ばす。 ぼんやりとする頭に手をやって軽く整えたあと、机に置いていたバレッタをつける。 つけ方がいまいちわからず、昨日の夜調べた通りの髪型を作った。 アレンジも何もない、ネット経由のよくある髪型にバレッタをつけただけでも、控えめだけれど可愛らしい華やかさが髪を彩る。 ぴょこんと跳ねた前髪を押さえ付け、ショルダーストラップ付きのハンドバッグを肩に掛ける。 忘れ物がないかと、身嗜みも改めて確認をして玄関へと向かう。 土曜日なのに、相変わらず友紀さんも葵衣も家にはいない。 葵衣の方は休みの日にもあまり家にいなくなってしまったから、今日が仕事なのかすらもわからないけれど。 「いってきまーす」 返事がないのはわかっていて、黒いショートブーツに足を通しながら、間延びした声で言う。 ついでに後ろを振り向いてみるけれど、廊下もどの部屋もシンとしていて、人の気配はない。 そのことに今更ながら、ほんの少し寂しさを感じて、振り払うように勢いよく立ち上がる。 ドアを開けると、風の強い日にしては珍しく、空にはいくつもの雲が散らばっていた。 雨になるのかもしれないけれど、そんな予報は出ていなかったし、念の為折り畳み傘は入れてあるから大丈夫だろう。
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