言って、言わないで。

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「ねえ、葵衣……?」 触れそうで触れられない距離を保っていた。 何の躊躇いもなく、葵衣と触れ合っているわけではない。 心臓は絶え間なく早鐘を打っているし、指先が震えようとしているのは寒さのせいだけではなく、緊張感はわたしが発している他に葵衣からも漂っている。 「前に、妹ってことを忘れてわたしに触れられるかを聞いたよね」 あれからもう半年が経つ。 気が遠くなるほど長いようで、思い返すととても短い。 「わたしから触れたら、葵衣からは離すことはないって、あのとき言ってたけど」 一言一句、違わずに覚えている。 『 妹に触れたいなんて思わない 』そう言っていたことも。 「今も同じこと、言える?」 半年が経ったから、ではなくて。 今、わたしとふたりきりのこの瞬間にだ。 「言えるし、出来る」 間髪入れずに断言してしまうから、とても複雑な気持ちになる。 腕を広げて葵衣を迎えようとしたところで、飛び込んで来てくれないでしょう。 わたしが飛び込もうとしたって、腕を広げて迎えてはくれないでしょう。 わたしでない誰かでも収まることの出来るその腕の中に、わたしが収まるだけの話だ。
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