言って、言わないで。

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既に身支度を済ませていた友紀さんと、昨日と同じ階のビュッフェで朝食を摂る。 朝はあまり食欲がないから、こういう形式の朝食で良かった。 いつもの主食は専ら白米だけれど、焼き立てパンに惹かれて小振りものをふたつ皿に乗せる。 スクランブルエッグとベーコン、グリーンリーフがたっぷりのシーザーサラダとオニオンスープ。 よくある洋風朝食を真似てみた。 友紀さんは昨夜もここに来ていたけれど、夕食と朝食ではやはりメニューがまるきり違うらしく、朝からよく食べるなあ、と関心してしまうほど、様々な料理を抱えてわたしの横に座った。 「サバに鮭って……」 「美味しそうでしょ? ブリもあったんだけどねえ、さすがに入らないかなって」 ご飯は控え目だけれど、出し巻き卵と漬け物を三種、具沢山の味噌汁まで揃えていて、ボリューム満点。 地方のチャンネルなのか、他県民には全くピンと来ない各地の穴場スポット特集が放送されるテレビ画面を眺めながら、黙々と食べ進める。 「葵衣に気を遣わせちゃったかなあ」 ぽつり、と友紀さんが零すから、箸を止めて横を見る。 友紀さんは視線を落として、少しシュンとしている様子。 「楽しみにしてたから、そりゃあ早く帰ることになったのは不服かもしれないけど、気遣うとかそんなのはないんじゃないかな」 それに、誕生日のある次の週末にも休みを取っていると言っていたから、もしかしたらこうなることは薄々わかってのかもしれない。
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