言って、言わないで。

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葵衣がもうひとつ嘘を吐いていたことを知ったのは、帰ってきた次の日に慶の家を訪ねたときだった。 慶の家の夕飯が遅いことは知っているから、六時過ぎにお土産を持って向かうと、とても間抜けな顔をされた。 「……え、花奏もくれんの」 「もしかして、葵衣にもらった?」 「ん、三箱な。花奏からのも入ってると思ってたんだけど、別って……なんか、悪いな。ありがとう」 差し出したまま宙ぶらりんになっていた紙袋を受け取り、中身を覗いた慶が目を見開く。 「多くね……?」 「あー……うん。ややこしいから何も聞かないで」 慶の前でなければ頭を抱えていたところだ。 葵衣がホテルを出て行った時間ではお土産屋さんはどこも開いていなかったはずで、あの小袋だけだと思っていたから、余分に買ったのに。 日菜は慶のような反応をしていなかったから、多分まだ葵衣に会っていないのだろう。 「じゃあ、またね」 玄関先でいつまでも話しているわけにはいかないから、早々に切り上げようとすると、慶が紙袋を置いて靴を突っ掛ける。 よろめいて前のめりに倒れてきそうになるから、そこはしっかりと避けておいた。 「いや、花奏!避けるなよ。受け止めろ」 「だって危ないし」 「俺がコンクリに顔面ぶつけるよりマシだろうが」 「慶の体重支えたらわたしが後頭部を壁にぶつけるでしょうよ」 こういうのは反射だから、避けたもの勝ちだ。 それに、反射神経に関してはわたしよりも慶の方が優れていることを知っているからこそ、下手に庇わずに避けたのであって、怪我をしてもいいと言っているわけではない。
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