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サチエの御守り。
幼い頃から大事に首に下げていた。
中身には何が入ってたのか知らなかったが、中身は、……あれは指輪だった。
御守りに入れて持ち歩くほどの大切なもの。
その相手は……まさか、俺の天敵、サチエのいとこの上総じゃねえだろうな?
あれから、どんな女と遊んでも面白くねえ。
「悪いが今日はやめとく。じゃあな」
遊びの途中で服を羽織り部屋を後にした。
家に帰るなりベッドへと寝転がった。
隣の家のサチエの部屋の窓が開いて、その後ろから天敵が当然のように姿を現した。
「鷹ちゃん、今夜の夕飯ね、鷹ちゃんの好きなものにするね」
ニコニコ顔のサチエの後ろが気にくわない。
苛立ちのまま着替えてサチエの家に行くと、なんの因果か3人の食卓だった。
サチエの隣に当たり前のように上総が座る。
「口にご飯粒ついてる」
「え?あ……」
上総の指先がサチエのくちびるに触れる寸前で思わず上総の腕を掴んだ。
上総が俺を睨む。
その後、上総がサチエの両親から帰って来れなくなったと電話が入り、上総が心配で泊まると言い出した。
「叔母さんがいいってさ」
上総がチラリと俺を見て勝ち誇ったように笑う。
「そうかよ、勝手にすりゃいいさ。俺には関係ない」
「鷹、ちゃん……?」
わけがわからない苛立ちにかられて伸びたサチエの手を振り払った。
その拍子に、よろめいたサチエの御守りが床に落ち、気がついた時には、パキッと音がして俺の足の下だった。
すぐにサチエが震える手で拾い上げる。
その手の中には、バラバラになったオモチャの指輪が。
「そんなのいつまでも持ってんなよ。たかが、オモチャの、」
きっと上総からの指輪だろう。
それをサチエが大事にしてたのかと思うと腹立たしかった。
「……鷹ちゃん、覚えて、ない、の?」
屈んだままのサチエが震える声で俺を見上げて、顔が泣きそうに歪んだ。
俺はオモチャの指輪なんて知らない。
「約束、……鷹ちゃんが」
その先の言葉はなかった。
サチエは振り返りもせずに外へと飛び出してった。
「鷹、おまえ、最低だな。これを見ても思い出しもしねえんだな。もう二度とオレたちの前に顔見せんな!」
上総はそう吐き捨てるとサチエの後を追って出ていった。
"思い出しもしねえんだな"
思い出す?何を……?
欠けて砕けたオモチャの指輪を見る。
上総からのじゃなかったら、……俺が、渡した、のか?
記憶の中を探ると、思い出した。
幼い頃、ひどい風邪をひいて倒れたサチエに、俺は約束したんだ。
だが、そんな子供の戯れ言……まさか。
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