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思い出した。
10年前の約束……
高熱を出したまま下がらないサチエの命の危険があると知った時、熱が下がったら何でも願い事を叶えてやると約束した。
そして、サチエはお嫁さんになりたいと答えたんだ。
「鷹ちゃんの……およめさんが、いい」
子供だましでもいい。俺は熱が下がればと思ってオモチャの指輪をはめてやった。
アイツは、それを今まで大事にして……
目から鱗が取れたみたいに苛立ちが消えた。
いつだって、サチエは俺だけを真っ直ぐに見ていたのに。
砕けた欠片を握りしめ、サチエの後を追いかけた。
幼い頃走り回った公園。
ブランコや滑り台、シーソーに砂場、隠れ家のようだった大きなトンネル。
きっとここにいる。
公園に一歩足を踏み出して足が止まった。
降りだした雨の中、上総がサチエを抱き締めていたからだ。
その瞬間、自分の気持ちを思い知った。
この焼けつくような胸の痛みがなんなのか。
"やだねぇ、女遊びが過ぎて鷹は自分のことを何もわかっちゃいないんだから"
"それを独占欲って言うんだぜ。それも知らねえのかよ?要は、ホレてるんだよ"
いつだったか呆れたように言われた言葉を思い出す。
無我夢中で上総の腕からサチエを引き剥がした。
泣き顔が俺を見上げ、震える声で、
「鷹、ちゃん……?」
「思い出したんだ。……全部」
後ろで上総が息を飲む音が聞こえた。
苛立ってたのはどんどんサチエが綺麗になってくからだ。
他の男を振り返らせるおまえがあまりにも無防備で。
近くに寄ってく男たちに嫉妬して……、上総がいとこだからと当たり前に近寄るのにも腹が立って。
だが、約束を思い出して、苛立ちも腹立たしさもすべて吹っ飛んだ。
サチエはいつだって俺だけを見ていてくれた。
「本当、覚えて……?」
「ああ。サチエにだけだ。これから約束するのは」
幼い子供だましじゃなく。
本気で。
初めから俺の気を引き続けてきたのは、サチエ、おまえだったんだから。
泣きそうに潤んだ瞳が俺を見上げた。
いつだって真っ直ぐに俺だけを見ていたのに、気づくまで遠回りしてた。
本気の上総に奪われそうになるまで気づきもせずに。
「サチエ……」
強く抱き締めた。
腕の中にあるのは、おまえの香り。
もう二度と手離さない。
「俺の嫁は、おまえだけだ」
「……鷹、ちゃん」
俺を見上げた瞳が潤んで一粒雫が零れ落ちた。
俺を翻弄し続けた泣き顔がくしゃりと笑う。
「返事は"はい"以外受け取らないからな」
10年前の約束。
あの時の指輪より確かな約束をおまえにやる。
「約束だ。サチエは俺のものだと」
はい、と、小さな返事がして、
ほろりと零れた涙を掬い頬を上げさせ、その柔らかなくちびるに口づけた。
「おまえのこと……ずっと好きだったんだ」
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