6月の読者プレゼント(*´∇`*)

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思い出した。 10年前の約束…… 高熱を出したまま下がらないサチエの命の危険があると知った時、熱が下がったら何でも願い事を叶えてやると約束した。 そして、サチエはお嫁さんになりたいと答えたんだ。 「鷹ちゃんの……およめさんが、いい」 子供だましでもいい。俺は熱が下がればと思ってオモチャの指輪をはめてやった。 アイツは、それを今まで大事にして…… 目から鱗が取れたみたいに苛立ちが消えた。 いつだって、サチエは俺だけを真っ直ぐに見ていたのに。 砕けた欠片を握りしめ、サチエの後を追いかけた。 幼い頃走り回った公園。 ブランコや滑り台、シーソーに砂場、隠れ家のようだった大きなトンネル。 きっとここにいる。 公園に一歩足を踏み出して足が止まった。 降りだした雨の中、上総がサチエを抱き締めていたからだ。 その瞬間、自分の気持ちを思い知った。 この焼けつくような胸の痛みがなんなのか。 "やだねぇ、女遊びが過ぎて鷹は自分のことを何もわかっちゃいないんだから" "それを独占欲って言うんだぜ。それも知らねえのかよ?要は、ホレてるんだよ" いつだったか呆れたように言われた言葉を思い出す。 無我夢中で上総の腕からサチエを引き剥がした。 泣き顔が俺を見上げ、震える声で、 「鷹、ちゃん……?」 「思い出したんだ。……全部」 後ろで上総が息を飲む音が聞こえた。 苛立ってたのはどんどんサチエが綺麗になってくからだ。 他の男を振り返らせるおまえがあまりにも無防備で。 近くに寄ってく男たちに嫉妬して……、上総がいとこだからと当たり前に近寄るのにも腹が立って。 だが、約束を思い出して、苛立ちも腹立たしさもすべて吹っ飛んだ。 サチエはいつだって俺だけを見ていてくれた。 「本当、覚えて……?」 「ああ。サチエにだけだ。これから約束するのは」 幼い子供だましじゃなく。 本気で。 初めから俺の気を引き続けてきたのは、サチエ、おまえだったんだから。 泣きそうに潤んだ瞳が俺を見上げた。 いつだって真っ直ぐに俺だけを見ていたのに、気づくまで遠回りしてた。 本気の上総に奪われそうになるまで気づきもせずに。 「サチエ……」 強く抱き締めた。 腕の中にあるのは、おまえの香り。 もう二度と手離さない。 「俺の嫁は、おまえだけだ」 「……鷹、ちゃん」 俺を見上げた瞳が潤んで一粒雫が零れ落ちた。 俺を翻弄し続けた泣き顔がくしゃりと笑う。 「返事は"はい"以外受け取らないからな」 10年前の約束。 あの時の指輪より確かな約束をおまえにやる。 「約束だ。サチエは俺のものだと」 はい、と、小さな返事がして、 ほろりと零れた涙を掬い頬を上げさせ、その柔らかなくちびるに口づけた。 「おまえのこと……ずっと好きだったんだ」
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