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「なぁ──あいつら、どう思う?」
真朱と桔梗が見えなくなると、柊露が紫苑に問いかけた。
「どう、って──何が?」
「何か気付かないか? 二人の様子に変わったこととか?」
「いや、特に。何かあった?」
「最近、二人揃って妙な宗教にハマってるって人伝に聞いたんだよ」
「宗教?」
「清福の学び舎、とか言うらしいんだが」
「清福の──学び舎?」
紫苑には初耳だった。
二人が宗教に関心があることも、その宗教団体の存在についても。
「ああ。お前は何か聞いてないか?」
「いや、別に。何か問題でも?」
紫苑は眉間に皺を寄せた。
「気になったから少し調べてみたんだが、宗教法人として届け出はされてるのに、活動内容が謎なんだ。いわゆる宗教とは掛け離れてると言うか、目的が分からない。噂では、修行と称して奇妙な格好で呪文を唱えたり、超能力を身に付けるためとかで人体実験まがいのことまでやってるらしい。あと、ただのガラス玉や石を高額で売ってる」
「それは──怪しすぎるね」
「だろ? まあ、たとえどんな風変わりな宗教でも、あいつらが信じてるだけなら構わないんだよ。信仰の自由もあるしな。ただ、ファンの子達にまで布教活動しているみたいでさ」
「え? それは、ちょっと」
「まずいよな。うちのファンには未成年のヤツだって多いし」
「確かに、あまり好ましくはないね」
「だよな? それによ──」
柊露は言葉を切って空を見上げる。
「──俺、宗教嫌いなんだよな」
柊露は寂しそうな目で流れ行く雲を見ていた。
「で、どうするの?」
「どうするかな──一応、社長には報告しといた方がいいのかな?」
「柊露は、本当に社長のことが好きなんだね」
「止せよ、そんなんじゃないさ。拾ってもらった恩義を感じてるだけだ」
Nookがまだ無名だった頃に、小さなライブハウスにまで直々に足を運んで観に来てくれたのが今のレーベルの社長だった。
そして新人としてはかなりの好条件で契約を結んだ。
それ以来、柊露は社長個人に絶大な信頼を寄せている。
それなりの知名度を得ても独立せず、時折訪れるメジャーレーベルからの誘いにも乗らず、頑なにフリークスに所属し続けているのもそんな理由からだった。
「よし、しみったれた話は終わりだ。早く飯食ってテレビ局に向かわねえと、リハーサルに間に合わなくなっちまう。初出演で遅刻じゃカッコ悪い」
柊露は定食屋に向けて歩き始めた。
「生放送だからね」
紫苑も後を付いて行く。
「そうか──」
柊露は急に立ち止まり、その背中に紫苑がぶつかりそうになる。
「──そうだよな。あの番組、生放送だよな」
振り向いた柊露の表情は先ほどとは比べ物にならないほどに明るかった。
「どうしたの?」
「いいことを思い付いた」
柊露は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
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