1985 / Chapter 2 : Killing Moon

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「新曲も作られているということで、これからの活躍がますます楽しみですね。ねぇ、李々香ちゃん」  李々香は移動していく柊露の後ろ姿を見つめている。新里に話を振られたことにも気付かない。 「──李々香ちゃん?」 「あ、はい。楽しみですね」  ようやく我に返って気の抜けたコメントを残す。 「準備できましたか? はい、それでは、Nookの皆さんで『銃声』です」  イントロが始まり、頭の二小節だけ『銃声』が奏でられたが、1拍の休止を挟んで唐突に別な曲に変わった。  真朱の完璧な8ビートに、桔梗のグルービーなベースライン。最強のリズム隊に紫苑の(なまめ)かしいギターリフが絡み付く。  柊露の歌が入ってくるが歌詞は当然テロップとは全く違う。 『悪いやつらの話をしよう  そう 為政者(いせいしゃ)の仮面を被ったあいつらだ  用心しろよ しおらしい笑顔で近付いてくる』  柊露は体をくねらせてカメラから逃げるように動き回った。 『傲慢(ごうまん)な偽善者たちが 欺瞞(ぎまん)を自慢する  幸せを祈りながら 銃を突き付ける  神妙な顔で 嘘を吐く者が珍重される  遺恨を抱いて隠れているやつらを(あぶ)り出せ 』  柊露は奥で座っている出演者の所まで走り寄り、李々香の腕を取ってカメラの前に引っ張りだした。李々香の腰は引けているが表情は楽しげだ。  踊るように李々香を振り回しながらサビに突入する。 『ロックンロールを殺したのは誰だ?  引っ込め お前らじゃない  クロスロードで契約したのは誰だ?  (ちぎ)ったのは悪魔なのか?』  柊露は断罪するように叫んだ。  誰が何の罪で裁かれるのか?  カメラを睨み付け、柊露は中指を立てる。 『バカ野郎共の  チンケな夢が舞い降りる  勘の悪い大人たち  ミサよりもミサイルが好きな連中さ  どうすりゃいい オリビアに聞かなくちゃ』  柊露は李々香の腰に手を回し、抱き寄せた。李々香は(あらが)いもせず、柊露にしなだれかかる。 『ロックンロールを殺したのは誰だ?  引っ込め お前らじゃない  クロスロードで契約したのは誰だ?  契ったのは悪魔じゃない』  演奏が終わった。まばらな拍手。 「いやー、迫力のある演奏でしたねえ。え? コマーシャル? ああ、そう。コマーシャルに行くのね。それでは一旦CMです」  ジングルが流れてCMに切り替わる。スタジオ内はスタッフが一斉にざわめき出した。
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