あるはずのない詩 / 第三章 悲しみの果て

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「奴らがお金のために世界征服を企む。それは解りました、よッ──」  純人は仕返ししようと伊師崎の人差し指を掴もうとするが、俊敏に引っ込められ空振りしてしまう。  純人は小さく舌打ちした。 「──そのために、僕達が洗脳の脅威に晒されているとしましょう。だとして、奴らの資金源は何なんですか? ボランティアじゃないんだから、活動資金が必要ですよね? どうやって元手となるお金を集めるんです?」  純人は口を尖らせて、伊師崎を問い詰める。 「資金を調達するなら金融と昔から相場が決まっている」  伊師崎は涼しい顔で即答した。 「金融? 金融っていうと、金貸しですか? お金を貸して利息で儲ける?」 「いや、少し違うな。それも金融の一つの側面ではあるのだけど、奴らが使うのは株や為替だよ。証券会社や銀行、財団法人が絡んでくる」 「僕はやってないから詳しくは知らないですけど、株とか為替って半ばギャンブルみたいなものなんじゃないんですか? 運が良ければ利益が出るんでしょうけど、悪くすれば無一文──最悪、マイナスになることもあるんじゃないですか? 資金の調達には向いてないって思いますけど、違うんですか?」 「一般の投資家は下手をすればそうなるだろうね。だけどね、絶対に損をしない算段は立てられているんだよ。金のためなら奴らは手段を選ばない。株価操作、インサイダー取引、空売り──為替操作のためには貿易戦争だって引き起こす。もはや金融マフィアだよ」 「なんか壮大な話ですね。でも──証拠はないんですよね?」 「状況証拠ならある。人種だとか宗教だとか領土だとか、紛争の原因とされるものは全て目眩(めくら)ましさ。対立を煽り、いざこざを捏造し、混乱に乗じて利益を出す。まさにじゃないか。奴らが金を集めるために、全ては仕組まれているんだよ。だから、その仕組みを理解していなければ、世界は混沌として見える。しかし、逆に、金の流れに注視して世界を俯瞰(ふかん)して眺められれば、明快だ。儲けているのは誰だ? 混乱に乗じて儲けている奴らこそ病根(びょうこん)だよ。混乱は作り事だ。つまり、」 「また、ですか?」 「君は人口比ではたった1%しかいない富裕層の資産が、残り99%の人々が持つ総資産よりも大きいことに疑問を持たないのか?」 「それは聞いたことがありますよ。でも、それは資本主義経済の(ゆが)みであって、確かに是正(ぜせい)すべき問題だとは思いますけど──」 「そう思うのは、君が洗脳されてるからだ」 「そんな──」 「君は『仮面ライダー』を見たことはあるかい?」 「仮面ライダーですか? 子供の頃は観てましたよ。男の子なら一度は夢中になるんじゃないですか?」 「初代悪役のショッカーは世界征服と人類抹殺──もしくは人類の奴隷化を最終目標としていたよ。似てると思わないか? 奴らが最終目標にしているのは人類を洗脳しすることだ」 「そ──そんな」 「そんな馬鹿なことがあるはずがない──今そう思っただろ? それこそ奴らの思う壺じゃないか。それとは悟られることなく人々を支配するんだ」 「いいでしょう。僕が洗脳されてるのは認めるとして──どうしたら奴らの世界征服を防げるんですか?」  純人は諦めたように次の質問をした。 「まだ気付かないのか? この世界は、んだよ」
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