1985 / Last Chapter : Who Killed Mr.Moonlight?

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「そう。僕達は長い間、幻影に魅せられていたんだ。熱狂して、陶酔して、魅了された。そして柊露はロックンロールに魂を売った。魂と引き換えに才能を手に入れた。なのに裏切られた。(だま)されていたんだ、最初から。そして、そのことに気付いたから始末された」  紫苑は再度、山吹を睨み付ける。  山吹の瞳孔が開いた。  紫苑を丸め込むのが困難であることを悟ったのか。 「なるほど──それで、どうするつもりだ?」  問われた紫苑は視線を窓の外へと移す。  スクランブル交差点を横断する人の群れ。  一際大きく人目を引く街頭ヴィジョンに、最近よく見かける売り出し中の女性アイドルグループが映し出されていた。  新曲のプロモーションビデオだろう。  派手な衣装に甘い歌詞。  紫苑は思考する。  彼女達が生きているのは、自分達とは(ことわり)が全く異なる世界。  嫉妬からではなく──勿論、皮肉などでもなく──彼女達には、どんな存在意義が在るのだろうか?  ファンに一時(ひととき)の享楽を与える? それはそれで尊い行いに違いない。  紫苑は更に思考する。  自分が今からしようとすることには、どんな意義があるだろうか?  正義? それは、自己満足な正義に過ぎないのではないのか。自分の行動は何を引き起こしてしまうだろう?  紫苑は、そっと自らの下腹部を撫でた。  皆、平和に暮らしている。たとえ、それが見せかけの、上辺だけのの平和だとしても。  この世界のを知ったら、人々はどうなるのか──。 「──おい、紫苑?」  山吹の声で、紫苑は現実に引き戻される。  不意に口角が上がった。  自分でも、何故微笑んだのか分析が出来ない。その不可解さが可笑しくて更に笑いが込み上げる。  クク、と声が漏れた。  山吹が怪訝(けげん)な顔で睨んでいるのに気が付いて、紫苑は居住まいを正す。  そして──。 「柊露の魂は、僕が受け継ぐ」  山吹の顔を真正面から見据えて宣言した。  それは、世界に対する宣戦布告。  紫苑に気圧(けお)されて、山吹の体勢が少しだけ後ろに傾いた。 「う、受け継ぐといったって──柊露は魂をロックンロールに売っ払ってしまったんじゃないのか?」  眼鏡を押し上げる山吹の指が、微かに震えていた。  紫苑はそれを見逃さない。  いつしか、場の主導権は紫苑が握っている。 「取り戻すのさ」 「随分と、簡単に言うじゃないか。取り戻す? どうやって? まあ、どうでもいいか──」 「人間を超越した力を手に入れる」 「は?」 「悪魔と契約を結んで、人間を超越した力を手に入れるんだよ。そのために、ここにいるんだ。悪魔と契約を結ぶなら十字路と相場が決まっているからね。往年のスターに(なら)って十字路(クロスロード)で悪魔と契約を結ぶのさ」  紫苑は三度(みたび)、窓の外を──人が行き交うスクランブル交差点を見た。 「それで──魂を受け継いで──それから、何をするつもりだ?」
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