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「組織をぶっ壊す」
紫苑は山吹の顔を目がけて拳を突き出した。勿論、寸止めで実際に当てはしない。
山吹は瞬き一つしなかった。
「ぶち壊す──って、お前な──」
山吹は紫苑の手首を握って腕を払いのける。
「──どうやってぶち壊す? 向こうは巨大な組織じゃないのか? 当然、それなりに力だって大きいだろ?」
山吹の表情に変化はないが、心中では笑っているのが紫苑には分かった。それくらいに付き合いも長い。
「巨大な力には巨大な力で対抗しないと、だよね。まぁ、なんとかなるでしょ」
紫苑は平然と嘯いた。
「組織に対抗できる力──国家権力か? 警察に駆け込むか? それとも政治家にでも頼み込むつもりか?」
「国家権力? 警察や政治家になんか頼らない。僕には僕の力があるからね」
紫音は両方の掌を開いて山吹に見せた。
「お前の、力?」
山吹は思わず、Tシャツの袖口から伸びる紫苑の細い二の腕を見た。力仕事など経験したこともないように、か細い。紫苑の言う力とは腕力ではないことは明らかだ。
「これさ」
紫苑は窓の外を指差した。
窓から見える薄暗くなりつつある街の中で、街頭ヴィジョンの映像が一斉に切り替わった。
そこに映し出されたのは、柊露の姿。
彼らがテレビの音楽番組に出演した際の演奏シーンだった。
生放送で、予定されていた曲を取り止め、新曲を勝手に演って大問題になった日の映像だ。
その映像に重ねて、テロップでメッセージが流れる。
『洗脳を解け』
『今すぐ覚醒せよ』
『団結して力を蓄えろ』
『この世界のペテンを暴け』
『思案しろ、思考しろ、考察しろ』
『何故、柊露は死ななければならなかったのか?』
画面は切り替わる。
そこに映し出されたのは、若くして自殺してしまったり、不慮の死を遂げてしまったミュージシャン達の肖像。
『何故、彼らは若くしてその生涯を終えることになってしまったのか?』
『もしも、自殺や事故ではないとしたら?』
『その死におかしな点は無かったのか?』
『むしろ不審な点だらけではないか?』
『誰が彼らを殺したのか?』
『誰がロックンロールを殺したのか?』
糾弾は続く。
場面が転換し次に映し出されたのは、投資家、政治家、王族、宗教家──。
世間では悪人とは認知されていない善良な者達。
そして、この世界を牛耳っている組織名が羅列される。
国境や時代を越えて活動している組織ばかりだ。
慈善団体としてよく耳にする名称もあれば、一般にはその存在すら殆ど認知されていないものもある。
『常識を疑え』
『捨て駒にされるな』
『綺麗事を言っている者を疑え』
『敵はどこにいる?』
『黒幕は誰だ?』
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