1985 / Last Chapter : Who Killed Mr.Moonlight?

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「組織をぶっ壊す」  紫苑は山吹の顔を目がけて拳を突き出した。勿論、寸止めで実際に当てはしない。  山吹は(まばた)き一つしなかった。 「ぶち壊す──って、お前な──」  山吹は紫苑の手首を握って腕を払いのける。 「──どうやってぶち壊す? 向こうは巨大な組織じゃないのか? 当然、それなりに力だって大きいだろ?」  山吹の表情に変化はないが、心中では笑っているのが紫苑には分かった。それくらいに付き合いも長い。 「巨大な力には巨大な力で対抗しないと、だよね。まぁ、なんとかなるでしょ」  紫苑は平然と(うそぶ)いた。 「組織に対抗できる力──国家権力か? 警察に駆け込むか? それとも政治家にでも頼み込むつもりか?」 「国家権力? 警察や政治家になんか頼らない。僕には僕の力があるからね」  紫音は両方の(てのひら)を開いて山吹に見せた。 「お前の、力?」  山吹は思わず、Tシャツの袖口から伸びる紫苑の細い二の腕を見た。力仕事など経験したこともないように、か細い。紫苑の言う力とは腕力ではないことは明らかだ。 「これさ」  紫苑は窓の外を指差した。  窓から見える薄暗くなりつつある街の中で、街頭ヴィジョンの映像が一斉に切り替わった。  そこに映し出されたのは、柊露の姿。  彼らがテレビの音楽番組に出演した際の演奏シーンだった。  生放送で、予定されていた曲を取り止め、新曲を勝手に()って大問題になった日の映像だ。  その映像に重ねて、テロップでメッセージが流れる。 『洗脳を解け』 『今すぐ覚醒せよ』 『団結して力を蓄えろ』 『この世界のペテンを暴け』 『思案しろ、思考しろ、考察しろ』 『何故、柊露は死ななければならなかったのか?』  画面は切り替わる。  そこに映し出されたのは、若くして自殺してしまったり、不慮の死を遂げてしまったミュージシャン達の肖像。 『何故、彼らは若くしてその生涯を終えることになってしまったのか?』 『もしも、自殺や事故ではないとしたら?』 『その死におかしな点は無かったのか?』 『むしろ不審な点だらけではないか?』 『誰が彼らを殺したのか?』 『誰がロックンロールを殺したのか?』  糾弾(きゅうだん)は続く。  場面が転換し次に映し出されたのは、投資家、政治家、王族、宗教家──。  世間では悪人とは認知されていないな者達。  そして、この世界を牛耳(ぎゅうじ)っている組織名が羅列される。  国境や時代を越えて活動している組織ばかりだ。  慈善団体としてよく耳にする名称もあれば、一般にはその存在すら殆ど認知されていないものもある。 『常識を疑え』 『捨て駒にされるな』 『綺麗事を言っている者を疑え』 『敵はどこにいる?』 『黒幕は誰だ?』
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