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ワイワイと祭り以上の賑わいを見せている会場は、室内会場の周りにたくさんの店が並んでいる。
その、室内会場のすぐ側にある外のバスケットコートでは、様々の人が楽しそうにバスケをし、その辺でチラホラと眺めている人達がいる。
ワアァァァァー!!!
会場から聞こえてくる大歓声は、外のファンをさらに盛り上げる。
「すごい歓声だな。」
「今の時間帯はシグムンドの試合中だからね〜、ここら辺のストリートバスケファンはシグムンドの勝利を期待してるんだよ〜」
へ〜、と感心しながら辺りを見渡していると、グレンが俺の腕を引く。
なんだ?と言って後ろをむくと、グレンは目をキラキラさせてあるテントを指さしている。
いや、彼女にその顔見せてやれよ。
彼女に同情しながら、グレンが指差すテントを見る。どうやらグッツの販売があっているテントで、多くの人で賑わっている。
いや、あん中絶対暑いだろ。おれ暑いの嫌いなんだけど.....
「1人で.....分かった。」
「あはっ!ありがとう〜」
美形に悲しい顔されると、うん、なんか罪悪感が凄すぎてため息をついて大人しくついて行く。
「ねぇー!見てよ功祐!これ!限定品だよ!あ!これレプリカじゃないユニフォーム!凄い!」
全く分からない俺は、グレンの後ろを着いて回り、辺りを見渡す。
見る限り、色んなチームのユニフォームとグッズが大量に置いてある。いや、どのチームがどのユニフォームからわからんからどれがいいとかわかんねぇーし。
ひとつのストラップを取ってプラプラと揺らす。ユニフォームの形をしていて、後ろに4番と書かれている。
チラリとグレンを見ると、グレンはこのストラップとは別のチームのユニフォームを持ってキャッキャと騒いでいる。
いや、だからその顔を彼女に見してやれ。
「おい、グレン」
「ん〜?なに〜?」
「トイレ行ってくる。」
「出て左行って少し歩いて右〜」
「わかった。」
ウンウンと唸りながらユニフォームの前で悩んでいるグレンを放置してテント内を出る。出ると、更に人が多くなっているのか、あちこちで大歓声が聞こえる。
うるせぇ。
「ん?あれ?功祐って.....」
そう言ってグレンが後ろをむくが、既に遅し、功祐はテントから出た後だった。
「.....まっ!大丈夫か!」
何とかなるだろ!と勝手に完結したグレンの声を聞くことなく、功祐はさっさとテントを出て足を動かす。右側に。
「.....あれ?トイレねぇんだけど?」
しばらく歩いたのにトイレの場所を示すものも見つからない。グレンが嘘をついたとは思えないし、と首をひねっていると、すぐそこから甘い声が響く。
声に驚き肩をくすめ、そちらを向くと、コートでは無く道に人だかりができている。
誰か有名人がいるのか、興奮した声が至る所から聞こえ、歓声とともに更に人が集まっている。
........すんげぇ嫌な予感がする。
別段全然優秀じゃない、むしろバカの分類に入る俺の脳みそは、嫌な予感だけは当たるようになっている。
脳みそに従ってすぐにでもここから去ろう、そうしよう、それがいい。
すぐに決まった行動は、その集団から早々に足を離す。しかし、その集団の塊の中にいつの間にか巻き込まれていたおれは、なかなか抜け出せない。むしろ、集団の中心のやつが動く方が早い。
やばいやばいやばい。
何がやばいか分からないが、何となくやばさを感じながら後ろに行こうともがくが、自分より体格のいい男性だったり、露出の多い女性ばかりで下手に体を割り込むことが出来ずにその場で足踏みしてしまう。
そして、俺の嫌な予感は見事に的中する。
いや、こんな時ばっか当たんなよ。
「あれ?ガキンチョ?」
聞き覚えのある、忘れたい声に言葉のかけ方、あと独特のあだ名。
振り向くな、振り向いたら終わりだ、振り向いたら負けだ。
心の中でそんなことを唱えながら足を進めるが、ムカつくことにこの集団の中心にいるやつはすぐに俺の方に歩み寄ってくる。
「なぁーにしてんだ?」
ガシッと肩に腕を乗せられ、見覚えのある黒い肌が真横に現れる。
ギギギッと、壊れた機械のようにゆっくりと顔をそちらに向けるとやはり嫌な顔がある。
「.....グレイ」
ニィッと笑いながら綺麗な歯をみせ、俺に肩を組み、ゆらゆらと揺らしてくるそいつは、忌々しいジャックと共に酒を飲んでいたグレイその本人だった。
全力で嫌な顔をして、グレイが肩を掴んでいる手を引き離そうともがくが、体格のせいか筋力のせいか、ビクともしない。
「よぉ、この間はどーだった?お楽しみだったか?」
分かってて聞いてくるグレイにムカつきながら、グググッと奮闘するがグレイの手から逃れることも出来ず、大人しく腕の中に捕まってしまう。
「は、な、せ!」
「え〜!つれねーなーガキンチョ
ジャックに言われてバスケの試合見に来たのか?」
「あ?なんであいつが出てくんだよ。友達の付き添いだ付き添い。てめぇこそなんでこんなとこいんだよ。」
そう言うと、グレイはキョトンとした顔をし、ガハハハハッと笑い声をあげる。その笑い声に、周りを囲んでいた集団は意味のわからなそうな顔をしている。
ちょ、やめろ、まじで!目立つ!
慌てて口を塞ごうと手を伸ばすが、もう片方の手で簡単にいなされてしまう。うぜぇ。
「まぁ、バスケしに来たんだよ。」
「へー」
「聞いといてそんなに興味ねぇ反応するなよ。ひでーなー」
「てめぇらに興味がねーんだよ。
分かったらさっさと手を離せ!俺はトイレ行きたいんだよ!」
「あ?トイレだったら逆方向だぜ?」
「.....まじ?」
「まじ」
逆方向だと言う言葉に驚きグレイを見ると、嘘を言っているようには見えない。むしろ、驚いた顔をしている。
.....ん〜ん?確かに、グレンは出て左って言ってたか?あれ?右じゃなかったっけ?あれ?
グレンの言葉を思い出そうとするが、全く思い出せない。
「まぁまぁ、せっかく来たんだ。遊んで行けばいーじゃねーか。」
グイッと肩を押され、グレイが俺をどこかに連れていこうとする。
「あ?嫌に決まってんだろ!離せ!」
「え〜、ジャックにはあんなに簡単について行ったじゃねーか」
「てめぇーらが勝手に拉致ったんだろうが!」
ガハハハハハッと笑うグレイに精一杯抵抗するが、易々と無効化され肩を組まれたまま歩かされる。
「あ!いたいた!グレイさん!
もうすぐ試合ですよ!早くしてください!またジャックさんに怒られちゃいますよ!」
人混みのどこからか聞こえてきた声に、グレイは俺に合わせていた顔を上げ、俺はジャックという名前に反応してその場に固まる。
「あ?うっせぇーよミゲル。」
本当にムカついたような声になったグレイを下から見ると、人混みの中から出てきた少し身長が高い男を睨んでいる。
ミゲルと呼ばれたその人は、180後半ぐらいの身長で、茶色っぽい髪の毛に、少しだけ気の強そうな顔をしている。
しかし、何故か苦労人感がめちゃくちゃ出ていて何となく同情してしまう。
「早くしてください!ジャックさんが次の試合はグレイさん中心であげるから遅刻しねぇようにしろって言ってたじゃないですか!」
「あ?知らねぇ」
もー!と怒るミゲルをよそに、グレイは俺の肩をギュッと掴む。まるで逃がさないと言っているようだ。地味に距離とって逃げ出そうとしていたのがバレたようだ。
いや、それよりも
「ジャックがいんのか?」
「あ?あぁ。あいてー.....」
「離せ!今すぐだ!すぐに帰る!!誰がてめぇらなんかと会うか!」
グレイの言葉を遮りながら、本気で逃げ出すためにもがく。
本気であいつと会う気は無い。てか、グレイと会った時点でジャックがいるかもしれないということに気づかなかった俺を、今すぐぶん殴りたくなる。
「おいおい、そんなんじゃジャックが寂しがるぜ?」
「知らねーよ!まじで離せ!」
バタバタと暴れているとグイッと胸ぐらを誰かから掴まれる。苛立っていた俺は、誰かも確認せずにあぁ!?と言いながら逆に胸ぐらをつかみ返す。
そこにいたのは、ミゲルだ。
怒ったような顔をしてミゲルは俺を睨みつけている。俺も負けじと睨み返す。
「てめぇグレイさんに何してんだよ」
あ?と言う声とともに、頭に疑問符が浮かぶ。グレイに何してた?離して貰えるように暴れてたんだよ。
睨み返していると、更にグイッと胸ぐらを上にあげられる。身長差が大きい俺とそいつでは、軽く首が閉まってしまいイラついて舌打ちを零す。
「てめぇ、もしグレイさんに怪我でもさせた.....っ!」
ミゲルとか言うやつが俺に何かを言っている途中に、ミゲルは横に吹っ飛ぶ。
いきなりの事で驚き、左側に飛んでいったので右を見ると、そこには足を上げたグレイがいた。
え?何してんの?こいつグレイの為に俺にキレてたんだよな?なんでお前が蹴り飛ばしての?
訳が分からずに目を白黒させていると、グレイはミゲルが吹っ飛んだことで近くに落ちたエナメルバッグを手に取った。
「あ〜、悪ぃなガキンチョ。大丈夫か首?」
エナメルバッグの中をゴソゴソと片手で漁りながら俺の首を見る。
別になんともなかったのでそのまま頷くと、片手でガリガリと頭をかいてまじで悪ぃと零す。
いや、別にいいけどミゲルとか言うやつは大丈夫なのか?
心配になって、ミゲルが飛んで行った方を見ると、ゲホゲホと咳き込みながらもゆっくりと立ち上がっている。
.....うん、痛そう。
「なんで」
上手く言葉に出来ず、首を傾げるだけで終わった俺の言いたいことを察したのか、グレイはエナメルの中身を取り出す。
「今ジャックに機嫌悪くなられると俺たちがやべーんだよ。
悪かったな。」
「いや、全然大丈夫。」
「はぁ、あのバカのせいだ。これやるからジャックに黙っててくれよ。」
グレイがそう言うと、俺の顔に何かが投げられる。
「あ?なんだよこれ?」
投げられたものを手に取ると、何か服のようなものだ。
ノースリーブのシャツ、あ、ユニフォームだ。
黒を基調として、赤とオレンジのラインが入ったそのユニフォームは、たしかグッズ売り場に置いてあったものだ。
たしか一番売れてたような。
「俺たちのチームのユニフォーム。
明日決勝戦にも来るならそれ着て来てくれ。着てくれるんならそれやる。」
「あ?いやだし要らねぇ」
「高額で売れるぞ」
「貰ってやる。」
返さない、と言うようにギュッと手の中に収めると、グレイは楽しそうに笑う。
「グレイさん、それって!」
「うるせぇ、てめぇのバスケ人生助けてやってんだから黙っとけ。
じゃあな、ガキンチョ。また明日な」
「もう二度と会わねぇことを願ってるよ」
負けろ。と言うと、グレイは楽しそうに笑い、ミゲルの襟を引っ張ってどこかに去っていく。
人混みはグレイに続くように移動していき、俺の周りにいた人もチラホラといなくなっていく。
俺も場所を移動して貰ったユニフォームを開くと、4番という背番号が着いており、その上にジャックと英語で書かれている。
ジャックかよ!と地面に投げ捨てたくなるが、高く売れる、これは高級品。と心の中で唱えてそれを抑える。
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