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轟々と音を立てて家が燃えている。
白いペンキで塗られていた小さな家は、真っ赤な炎のせいですす汚れた赤色になっている。
「そっちから消せ!」
「おい!そっから火が回るぞ!」
「もう少し離れてください!」
警察やら消防やらの声が響いている中、俺は頭を抱えて冷静に状況を判断しようとするが、全く頭は回らない。近所の人達も見に来ていて、俺の家の周りは野次馬ばかりだ。
「おい」
唖然としていた俺の背中を、ジャックが軽く押す。「あぁ」と返事をしながら人混みをかき分けて前の方に入っていく。
「まぁ!コウくん!」
「おばさん。」
慣れ親しんだ、とは言いずらいが、声だけで誰かを判断出来る程仲のいい近所のおばさんが俺を見つける。
人混みの中を、器用にスイスイと避けて俺の前に来ると、おばさんは俺の肩を叩く。
「大丈夫?突然の事で驚いたわねぇ」
「はい。なんで.....」
火事に?と言う前に、分からないとおばさんが首を振る。自分の家がいきなり悲惨なことになってしまい、理由も分からないのでさらにテンションが下がる。
「コウジさんは?」
「連絡は入れました。返事は来てないのでどうするかは知りませんが」
「でも.....」
首を振ると、俺たちの仲の悪さをよく理解しているおばさんは困ったように顎に手を当て笑う。
おばさんに笑い返し、家を見る。
轟々と燃え続ける家は、火が止まる気配はない。あー、俺のお気に入りの服も燃えたし、お気に入りの本も濡れた。親父の私物なんて何があるのか知らないが、売ったら高そうなものがあったのでさっさと売っておけば良かったと後悔する。
「でも、これからどうするの?」
「え?」
おばさんからの突然の問いかけに、意味がわからず首を傾げる。
「ほら、だって家が燃えてしまってるでしょ?しばらくホテルかどこかに泊まらないと。」
確かに.....
おばさんに言われて、ようやく事の重大さに気づく。
通帳の中に入っているお金はたったの1000ドルほど。二週間もホテルに泊まれば全て消えてしまう。頼れる親戚もいない。父親からの連絡は期待しない。家なし、職なし、苦労人大学生の俺に簡単に貸し出してくれるアパートがあるはずもない。しかも日本人。
本当にやばいと自覚した俺は、家を見る。そこには、相変わらず轟々と燃える炎が立っている。恨めしく火を睨みつけるが、収まってくれる気はしない。
「ご安心をマダム。俺が責任もって自宅に泊まらせます。」
「あら!いい男!そう?なら安心ね。」
キャピキャピと話しているおばさんの話を聞き流し、家を見続ける。
「はい、こいつに何かあれば、俺にも連絡をお願いします。」
「まぁ!ご丁寧に名刺を.....え!あ、あの会社の方なの!?」
「えぇ、まぁ、一応籍を置かせていただいております。」
「まぁまぁ、なんてこと!」
盛り上がるおばさんを放置.....しちゃいかんこれは!
「ちょ、何し.....ジャック!?」
車の中で待っとけと言っただろ!と言う気持ちを込めて叫ぶ。するとジャックは、おばさんに向けていた笑顔が嘘のように表情を消して俺の方を向く。ちゃっかりおばさんには表情が見えないところで無表情になった。すごいなお前。
てか、
「自宅に泊まらせるって、俺の事!?」
「あら?当たり前じゃない。」
何いってんだこいつ、と言う顔をジャックからされる。てめぇ、車の中で待ってろって言ったろーが!てかまず、周りからの注目を受けていることを自覚しろ!!野次馬がてめぇの方をチラチラ見てんだよ。
そんな気持ちを込めて睨みつけるが、それを咎めるようにおばちゃんから背中をバシバシと叩かれる。痛い。
「まぁまぁ、あなたみたいな青年だったら安心してコウくんを任せられるわ」
「おばさん!?」
勝手に進められる話に声を上げるが、2人して俺を無視して話を進める。
いや、まて、俺の拒否権どこいった。てか、俺はグレンの家にでも行く気で....っと言おうとする前に、ジャックが俺の方をガシッと掴む。身長差のある肩に腕が巻かれる。
「今日の酒代。」
「うぐっ」
「シャツも燃えたな。」
「いっ」
「しかも送ってやったよな」
「それは.....」
「で?」
「.....お世話に、なります。」
「あぁ、もちろん。俺とお前の仲だ。気にするな。」
おばさんに向けていたような笑みで、猫をかぶった声音で言ってくるジャックに鳥肌が立つ。エルボーを食らわせて腕から逃れるとさっさと家の方に歩いていく。
あぁ、くそ!なんであいつの家なんかに転がりこまなきゃいけないんだよ!
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