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「はぁはぁはぁはぁ」
壁を埋めつくす程の落書き。酒の香りとネオンの煌めきだけが自身の辺りを包む。
いくら走ったか覚えてないが、息が切れ切れで今すぐにも倒れ込みそうなほど疲労が全身に蓄積している。
細い裏路地を抜け、観光客もいる道に出る。行き交う母国語ではない言葉に、舌打ちをひとつこぼして人混みに紛れるように歩き出す。
辺りを見渡しても、警戒している顔はひとつも見えない。息を整えながらも歩き、辺りを警戒しながら進む。
くそ!あいつが女なんかに引っかからなければ!てか、俺を巻き込むな!
ここには居ない友人の顔を思い出しながら悪態をつく。だいたい俺もあいつの話に乗って飲みに来なければ良かったんだ。
数時間前の自分を恨みながら、家に向かう道に出る。
スマホを見ると、まだ日を跨いで浅い。大きくため息をついてスマホをポッケに戻す。
「いたぞ!!!」
異国の言葉で聞こえてきた言葉に、ハッとして振り向くと、そこには2人の知った顔。
前を向いて走り出そうとするが、前にはニヤニヤしながら1番会いたくない顔があった。
『クソ!!』
母国語で悪態をつきながら右手にある細い路地に逃げ込む。
ようやく整った息を荒らげるように走り出すと、遅れてバタバタという足音が聞こえてきた。
裏路地に逃げ込むのは相手の思うつぼだと分かっていても、それ以外のルートがなく、大人しく足を動かす。
嬉しいことに、母国でもこんな体験はいくらでもしてきたので、逃げ足の自信はある。違うところといえば、逃げる相手が母国では規格外サイズだということだろう。
物を倒しながら進むと、見知った路地に出る。もうすぐすれば家の近くに出る道だ。
後ろから聞こえる騒音を気にしながら、前を向いて走る。
「待て!ぶっ殺すぞ!」
ぶっ殺すなんて怖いことを聞いて止まる奴がいたら見てみたい!と心の中でバカにしながら、少し距離が離れた後ろの奴らを見る。
敵は3人。
確か8人グループだった筈だが、5人は逃げ始めてから見てないなと思う。
あらかた友人の方を追っているのだろう。
だいたい、俺は友人と違ってこのグループのボス格の女に一晩お世話になった訳では無いので、たまたま一緒に友人と飲んでいたと言うだけで巻き込まないで欲しい。
叶わないであろう願いを思いながら、見知った道に出る。
後ろの奴らはまだ俺が倒した物に手間取っているのか、姿は見えない。これ幸いと、家の方に足を向ける。
わざわざあいつらに家を教える気はないので、ラッキーと思いながら進む。が、天は俺に味方しなかったようだ。
遠くからでもわかる、他の家と比べると少し小さな俺の家。
アメリカではあまり好まれない小さな二階建ての家の玄関には、見知った顔が2人居た。
なんで俺の方に8人中5人も割り振ってんだよ!だいたいなんで俺の家を知ってるんだ!と頭が混乱する。
ムカつく顔で笑っていた後ろにいるボス格にfuck!と叫ぶ。
下手したら、俺の家に連れ込まれて集団リンチになるかもしれない。元々ここら辺は治安のいい場所ではないし、しかも、貧困層に近い連中が集まるような住宅街だ。
多少うるさくしようが、近所の住人がリンチされようが、レイプされようが見逃されるような街だ。
家から離れるように足を左側に切る。
ようやく追いつき始めた後ろの3人が、俺に向かって声を上げる。
「てめぇ!いい加減にしろ!!」
お前らがいい加減にしろ!そう叫びたいが、少しでも体力を残すために黙って走り出す。
男のせいで俺の存在に気付いた俺の家の前にいた2人が、俺を追いかけ始める。
1対5とかどんな無理ゲーだよ!しかも、全員俺より最低顔半分はデカい。
喧嘩になったら勝てるはずもなく、結局逃げるしか選択肢がない俺は、またネオンが大量にある街に向かう。
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