ふざけんな!

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疲労が溜まり溜まった足は、最初ほど早くは走れず、追いつかれることはなくても離れることは無くなった。 「ぜぇぜぇ、ぜぇ」 呼吸も怪しくなってきて、がむしゃらに走る。 しかし、がむしゃらに走っていたせいで気づくのが遅かった。 やばい。 ここら一帯は、そこらの荒くれ者でも足を踏み入れないほど、欲に溺れたようなギャングが集まるような道で、このテキサス州サンアントニオでおこるレイプの半数がここで起こっていると言ってもいいほどやばい所だ。 観光客が迷い込めば物は取られる、レイプはされる、下手すればヤク漬けにまでされる。 後ろから聞こえる男たちの声は消えることはない、むしろ近づいてきている。 くそ! 進む道はそのギャングの街に行く道しかない。下手に走ったせいで、間違った道を曲がり、もう引き返す道はない。 とりあえずガヤガヤとしたイカつい男と、洋服か?と言えるほどうっすい服と、布の面積が少ない女達が行き交う人混みに入る。 俺のような日本人が珍しいのか、それてもいいカモと品定めされているのか、不躾な視線が刺さる。 「あのガキ!どこに行きやがった!」 「散々逃げやがって!ぶち殺してやる!」 不穏な声が近くで聞こえる。 ありがたいことに、日本では平均より少し高めな身長の俺だが、アメリカでは小さいおかげで簡単に見つかることは無い。 人の隙間をすり抜けながらどんどん奥に進む。 友人の手癖が悪いせいでスリを避けるのは得意だし、むしろ俺もスリを出来る方だ。 俺なら絶対スリの標的にしない人間の動きをしながら、スリもされずにスルスルと抜けていく。 「どこ行った!」 「あいつ!!おい!あれ!!」 っ、バレた!と思い、後ろをむくと、ボス格と目が合う。 ボス格が笑うと同時に、周りのヤツから「いたぞ!!!」という声が聞こえる。 後ろを向きながら走ろうと地面を蹴る。が、勢いをつけた所で何かにぶち当たる。 先回りされた!?!?驚きながら前を向くと、見えたのは分厚い胸板。 え? 身長が高いアメリカ人の中でも、頭1つ近く飛び抜けた身長。驚きながら顔を見るために上をむくと、眉を潜めた凛々しい顔立ちが俺の方を眺めていた。 えっと..... あいつらの仲間では無いはずの男に、首を傾げ眺める。 男でも見惚れるほどの美丈夫で、綺麗な金色の髪はサラサラと流れている。しかもぶつかって分かったが体も出来上がっているようだ。 ストリートファイターのようなヤンキーでは無く、綺麗に引き締まった体から、ジムやそこら辺で考えて鍛えられているのがわかる。 「おいジャック、なんで止まって.....なんだこいつ?」 後ろからピョコッと出てきた、ぶつかった男よりまた身長の高い男に驚いて体が無意識に引く。 「急げ!捕まえろ!ぜってぇぶち犯して殺してやるあいつ!!」 忘れていた存在の声に、さっきよりも大きく肩を揺らす。 声を聞く限りもうすぐそこまで迫っているし、なんか不穏な言葉が1つ増えてしまっている。 やばい!と思い、ぶつかった男を避けるように体を捻る。 男を避けて通ろうとした時、何かが俺の腕を掴む。捕まっ.....!?!? ガツン!と音がするのと同時に、唇に何か熱いものが当たる。 「ふっんぁぅ」 近くにあった壁に押さえつけられ、キスをされる。 驚いて目を見開くと、目の前にはサラサラしてそうな金髪と、宝石も嫉妬しそうなほど綺麗なパール色の瞳。 パール色の瞳に射抜かれ、背筋がビクッと反応する。 っ!? ガッ!と顎を掴まれ、口が開く。それと同時に薄い舌が俺の中に侵入し、優しく俺の舌を包み、いい子、と言うように舌と上顎を舌で撫でられる。 感じたことの無い快感から逃れるように後ろに引くが、後ろはもちろん壁だ。 手は男の手により押さえつけられており、好き勝手に蹂躙されるしかない。 「ヒュ〜」 茶化すような口笛が、男の後ろから聞こえる。どうやら男の仲間が吹いたらしい。 「おい、あいつどこいった!?」 「はぁ!?さっきまでそこにいただろ!」 男がキスの角度を変えた瞬間、視界の端に俺を追いかけていた男達がどこかに走っていくのが見えた。 たす、かった? 安堵すると共に唇を離される。 同時に、男からの支えも無くなり、疲労とキスのせいで力が入らなくなった足から重力に従い崩れ落ちる。 「おいおいガキンチョ そんだけで足が立たなくなったのかよ。」 バカにするように声をかける男を睨みつける。 バカにしてきたのはさっきぶつかった男の後ろから俺を覗いてきた男だ。 キッ!と睨む、バカにしてきた男がニヤニヤと笑っている。 真っ黒な黒人で、短い灰色の髪の毛がトレードマークで、ぶつかった男よりさらに体格がいい。 「うるせぇ」 ゴシゴシと唇と手で拭きながら言うと、黒人の男は更に笑う。 「おい!俺こいつ気に入った。連れていこうぜ!」 俺がぶつかった男の肩に腕を置きながら、黒人の男が面白そうに言う。 後ろにいる2人も仲間なのか、後の奴は呆れたようにため息を付いている。 「おい、グレイ。 いくら金を落としてる俺らとはいえ、あそこは未成年をいれちゃぁくれねぇぞ」 後ろの男が発した言葉にムッとする。 「悪いが成人してる。」 「はぁ!?」 「嘘だろ。」 後ろの2人が驚いた声を上げ、黒人は嬉しそうに口笛を吹く。 キスされた時に口笛を吹いたのもこいつだろ。 ムカつく、と思いながら黒人を睨むと、その間にぶつかった男が割ってはいる。 白人の綺麗な白い肌に、染めても出ないような綺麗な金髪。そして何よりさっき射抜かれたパール色の瞳。 無意識のうちに壁の方に体を引く。 「着いてこい」 「はぁ!?ふざけんな!誰が.....お、おい!!」 ぶつかった男が俺の腕を引くと、まだ足に感覚が戻ってなく崩れ落ちそうになる。 ぶつかった男は、器用に俺を支えると、ヒョイッと俺を俵担ぎにする。 「おい!おろせ!!!」 「どうせ腰が抜けて歩けないんだ大人しく着いてこい」 「ふっざけんな! おろせ!!!」 「目的地に着いたら下ろしてやる。」 「諦めなガキンチョ。」 俺の顔の高さに合わせるように覗き込む黒人に、一発当たるように腕を振るう。 だが、当然ように避けられ、舌打ちをすると、黒人は声を上げて笑う。 くっそ!!んだよこいつら!!
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