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ジャックは何故かそうとう怒っているようで、メアリを睨みつけている。
「お前には話してあるよな」
「っ!ごめんなさい!でも、ニアにもきっと理由が!」
「そうやって前の奴らも見逃したからレニーはあんなことになったんだぞ!」
「でも!ニアは誰も売ってない!」
「はっ!そんなこと分かるかよ!たまたま俺たちファフニールを売ってないだけで、他のやつは売ってるかもしれないだろ」
「ニアはそんな事しない!」
2人の口論がどんどん酷くなるが、意味のわからない俺は、ますます首を傾げるしかない。
「それに、もう血を吐いてるんだ。」
「ま、まだ.....」
ガチャ
誰かが扉を開ける音がする。ジャックは分かっていたかのように寝室の扉から何か言っている。
「っ!」
「メアリ?」
メアリがニアを守るように扉の方向に立ち塞がる。訳が分からない俺は、一応ジャックの方に近づくと、それと同時に真っ黒なスーツを着た男と、チンピラのような男が2人入ってくる。スーツの男は大柄だ。ジャックと並んでもあまり負ける体格はしてないし、手や顔にはいくつもの傷跡がある。
その男達は、すぐさまニアに気づくと、メアリを押しのけてニアに手を伸ばす。
「っ!おい!何して.....ジャック!」
ニアを無理やり立たせようとする男達に、俺が掴みかかろうとすると、逆にジャックから腕を掴まれる。
「無理だ」
「はぁ!?なんでだよ!」
少しだけキュッと顔をゆがませ、ジャックは首を振る。意味わかんねぇ!と吐き捨て、メアリを見ると、メアリも何も出来ずに床にへたりこんでいる。
「さっき俺が投げ寄こした錠剤はスピリティングフラワードラッグ」
「ドラッグ?」
「最近流行ってる違法薬物だ。ただ、ここら辺の主が許可してないドラッグのせいで解毒剤は一切ない。」
「はっ?」
ドラッグは所詮違法薬物で、麻薬や覚せい剤、合法ドラックとかが上げられる。確かに警察やらなんやらは違法薬物に手を出したら抜くのに大変だと言うが、確かにそうだが解毒剤がないわけでは無い。もちろん、激痛やらなんやらは伴うが、自然と抜くより頭を麻痺させたりして抜くことが出来る。まぁ、こっちも違法薬物だが。
しかし、毒物を作る時と同じで、違法薬物にも解毒剤は対となって作られるものだ、それが作られてないということはそこら辺のど素人が作った本物のヤバいやつと言うことだ。
日本でもそうだが、裏の社会と言うものは案外上手くできており、その地域一帯を納めている裏の人間がゴーサインを出さないとドラッグなんかは販売されない。確か、上納金の計算をしないといけないからとか何とか。
「おい、ドルタ。」
俺がそんなことを考えているうちに、ジャックは違う方を向いていた。唯一スーツを着込んでいる男がこちらを向く。その男は、手でチンピラのような2人に合図すると、こちらに体を向ける。チンピラ達は、ニアを担ぎあげていたのをやめ、ベッドにすぐさま寝かせる。
「なんだ」
「香里奈はどうした。」
香里奈?日本の名前が出てきて驚いていると、メアリも驚いたようにジャックを見ている。
「お前らに構う暇はない。おい、連れていくぞ」
チンピラ達は、へい。と返事をするとまたニアをかつぎ上げる。スーツの男が指で合図すると、2人はニアを連れて寝室を出ていく。俺は何か分かっているジャックが何もしないのなら何も出来ない。座り込んでいるメアリを眺めていると、スーツの男が横を通る。
「捨てたら合法的に潰しに行くぞ」
「.....」
ジャックと2人の睨み合いが数秒続き、先にスーツの男が目をそらす。その時に一瞬だけ目を合う。あ、左目が見えてない。全く動かない左目。それを見つめていると、直ぐに彼らは去っていく。
「おい、メアリ。」
ジャックがそうメアリに声をかけると、メアリは頭を抱えて首を振る。
「分かってる!分かってるの.....。でも、お願い。まだ無理。」
親友が街のギャングに連れていかれたのだ。気持ちは分かるし、もし俺がメアリの立ち位置なら殴りかかっている。
「なぁ、ニアは.....」
「安心しろ、あいつらはバカだが上はバカじゃねぇ。多分ニアの事も俺が言う前に気づいていた。ただ見逃されてただけで、いつかはこうなる運命だ。」
チッと舌打ちを零すジャックに目を伏せる。スピリティングフラワーもよくわかんねぇし、この街に来てなかなか経つが、この街のルールすらほとんど知らねぇ。
帰るぞ、と言うジャックの後ろに続く。寝室を出る際メアリを見ると、未だに床に座り込んだまま泣いている。
ジャックの背中を見ると、いつもよりイラついている。昨日の事もあるし、さすがにそう当たり前か、と思いながら後ろを歩く。
「なぁ、」
ニアのアパートをでて、少し歩いたところで声をかける。まだ暗い道は、若干足場が悪く、度々何かに当たる。
「なんだ。」
「あいつらってなんだ?」
スーツの男と、あのチンピラみたいなやつら。というと、ジャックはまたため息を着く。
「この州をまとめる香里奈・ガブリエラ・ヴィーラントの部下だ。」
ヴィーラント?と首を傾げる。なんかどっかで聞いた事ある名前のはず.....ん〜?と唸るが、思い出されない。てか、唸ってたらケニーとグレンの顔が浮かんできた。要らん。
「?誰だ?」
「.....イムピラトリーツァが有名だな」
そう言われて思い出すのは、数日前の美しい女性。あぁ、と頷くと、ジャックもようやくかみたいな顔をして頷かれた。
「あいつらはそいつの部下。ドルタに関しては側近だ。」
「じゃあ、あいつらはなんでニアを」
「単純に香里奈がスピリティングフラワーを許可してないのと、解毒剤の開発を急いでるからだ。」
「つまり、実験体。」
とどのつまり、ニアは解毒剤を開発するための道具だ。ろくな扱いにならないのは目に見えている。やっぱり殴り掛かるべきだったと拳を握ると、ジャックはため息をつく。
「香里奈に捕まったんならまだ安心なほうだ。」
「え、なんで?」
「スピリティングフラワーを使ったら、本人の血液自体がスピリティングフラワーの成分を含むんだよ。だから今のドラッグの売人の元締め達は、スピリティングフラワーの本体プラスそれを飲んだ奴らの血も求めている。血に薄まったスピリティングフラワーが入ってるから使えるんだよ。他の奴らに捕まってたら全身から血が抜かれてたな。」
しかも吐血するまで飲んでる貴重なタイプだ。というジャックに何も言えなくなる。
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