よし、逃げるか

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「浩祐。」 「あ?」 ジャックが俺の名を呼び顔を近づけて来るので、大人しく目をふせ頬を合わせる。簡単に言えば、これはキスの代わりだ。どこでもかしこでもキスをしてこようとするこいつに、俺がブチ切れてキスの代わりにこれで妥協させた。俺も妥協した!おかえりとかの挨拶のキスは家の中だけ。外でしたら家でのおかえりのキスは3日禁止となる。 1回ふざけて外でキスしてきたので、本気で家に帰ってもキスをしなかったら、拗ねて面倒だったらしい。主に被害者はグレイだ。グレイなら仕方ないよしとしよう。 そうなことを思い出していると、ジャックが俺から離れる。さすがに臭ってくる女物の香水の匂いにムッとするが、仕事なら仕方ない。 「おい、俺も入れろ。」 「嫌だよ!全部持っていかれる!」 「俺も嫌。」 いつの間にか俺の座っている肘掛に座っていたジャックが勝っていた2人に言うと、2人はいやいやと首を振る。その姿に、ジャックは舌打ちをすると俺の手からカードを取ってカードで遊ぶ。 その時、首筋に赤いものが見える。あ、これは。 「ジャック。外はどうだ?」 「あ?記者で大量だ。」 邪魔くせぇ。と言うジャックに、帰ろうかと考えているのに、とどんよりする。 「なぁ。どうやったら外見れる?」 「あ?裏口にでも行け。そしたらそこにもいる。」 裏口。あぁ、裏口から回って表を見ればいいのか。なるほど。と頷くと、ジャックが俺の腰に腕を回す。 「んだよ?」 「まだ帰らねぇぞ。」 「俺、明日大学。」 「まだ11時だ。」 「あさ一限から。」 「.....俺帰って来たばっかだ。」 「香水臭くなってな。」 俺の香水はすっかり消えたようですね。なんて言うと、ジャックが眉を寄せる。正直しょうがない事は分かっていても、ウザイものはウザイのだ。 ジャックが睨みつけてくるので、それをニラ見返しながらペいっとジャックの腕を取る。もう一度服を掴まれる前にサッと避けると、ディの肩を叩く。 「じゃあな、俺は帰る。」 「おう、またな。」 「あぁ。」 「おい!こう」 「まぁまぁ、ジャック。主役がどっか行くなよ。」 後ろからジャックが文句を言ってくるが、帰りたいものは帰りたい。抑えてくれているディに内心感謝しながらバーカウンターの裏に行く。そこにいるのは、顔なじみになったバーテンダーや、厨房担当の人達だ。 「おう、浩祐。もう帰んのか。」 「あぁ。明日一限だかんな。」 「そうか、なら気をつけろ。」 「なんで?」 「裏も記者で大量だ。」 店長の言葉に、うわぁ〜と顔を顰めると、他のバーテンダー達から笑われる。 「うちは守秘義務は絶対だかんな。気をつけろよ。」 くすくすと店長が笑ってくるので、もちろんです。と言って手を上げる。 「じゃ、俺帰るんであいつらお願いします。」 「お前がいてくれたら片付け楽なんだけどなぁ〜」 「片付けも仕事でしょ。」 一番仲良くなったバーテンダーから肩を組んで言われるが、ドンと肩を叩くとやれやれと言いながら肩を離す。 「じゃあな、浩祐。」 「あぁ、また今度な。」 全員が丁寧に頭を下げてくれるので、さすが店長。教育行き届いてる。と思いながら裏口に向かう。少し錆びた重い裏口の扉を押すと、大量の人がそこらかしこに座っている。それにギョッとしていると、直ぐに周りを囲まれる。 「ねぇ君!なんでここから出てきた?」 「店員?」 「中の様子は!?」 「ファフニールは何してるの!?」 「どんなのを飲んでた?」 「ジャックの好みは?」 ワラワラと集まり、次々と質問してくる記者たちに顔が引き攣る。 「いや、俺ただの店員なんで。」 「中は!?どんな感じ!?」 「いや、守秘義務が、」 「お願い!ジャックが1番飲んだ酒は?」 「いや、だから守秘、」 「グレイの新しい恋人は!?続きそう!?」 「しゅひ、」 「ジャックは今日どんなの子をお持ち帰りの予定!?」 ヒクッと口がひきつると同時に、俺の中の糸がプチンと切れるのが分かる。 「っ!だから!!守秘義務だっつんでんだろぉ!」 うるせぇ!散れ!と言うと、記者も諦めたのか散り散りになって俺の周りが開いていく。くっそ!アメリカにはプライバシーってもんがねぇのかボケ! イライラしながら記者の隙間を通り過ぎて抜けて行く。いつもは人気のない路地なのに、今日は人で溢れかえっている。ドラマの刑事なみにパンと飲み物をもそもそと食べながら張り込んでいるようだ。 舌打ちしたいのを抑えながら路地を抜けると、ようやく人がまばらな空間に出る。こんなのにさらに囲まれると思うとあいつら帰る時大変だななんて思うが、慣れてるか。と早々に思考を停止する。 「ねぇ!君!」 家に帰ったらまず風呂入って。眠いし先に寝るか。あ〜でもあの本の続きが気になってたんだよなぁ〜。今夜の行動を悩みながらウンウンと首を傾げる。 グイッ! は? いきなり感じる後ろへの重量。驚きすぎて目を見開きたたらを踏んで後ろを振り向く。 「っ!あっぶね〜な?」 後ろを振り向くと、全く見たことも無いおっさんが息を切らしながら俺の腕を掴んでいる。全くおっさんのことなんか思い出せずに首を傾げていると、おっさんががバっ!と俺の方を向く。 いや、びびるわ。 「ねぇ、君!君って、いつものジャック・ヴァン・マシューズと一緒にいるよね!」 「は?」 驚いて微かに目を開いた気がするが、それを隠すように笑って首を傾げる。 「一緒の家から出てくるし、よく一緒に行動してるよね!」 「いや、勘違いじゃ」 「そんなわけ無い!もしかして、もしかして君って、」 言おうとしていることを何となく察し、腕を振り払う。 「知らねぇって言ってんだろーが!!しつけーぞ!!」 男がビクッ!と肩を跳ねさせる。俺は舌打ちをするといかにもイライラしてますと言うように背を向けて歩き出す。
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