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「もう記者いねぇな。」
「あぁ、俺の両親が来たんだ。それのことを記事にするためだろうな。」
十分なネタだろ。というジャックに、確かに、あんなに美男美女ならいいネタになりそうだと思い下を眺めるのを止める。
「お、いい匂い。」
俺たちは今、庭を使って夕食にしている。ジャックの両親が突撃してきて丸1日が経った。ジャックが言うには、明日にはマシューズ夫妻とジャックの記事が出るとの事だ。まず、行きはバレずにここを出たらしいが、帰りに激写されたらしい。
うん。いや、まずあの人垣をどうやって通り抜けたのかが分からない。ただ分かるのは、ジャックがアホみたいに疲れて帰ってきたので、相当キツかったのだろうと思う。
「皿取れ」
「はい。」
疲れ過ぎて、何も出来ないと言って今日丸1日寝ていたジャックは、夜になって生き生きと起きてきた。俺は俺で、ジャックが家事の邪魔しなかったおかげで色々すんなり出来て良かったけどな。
そんでもって、何故か起きてきたらすんごい機嫌がいいジャックが、突然庭で飯を食おうと言い始めたのだ。夜のピクニックでもする気か、と引いていたらまさかの冷蔵庫から巨大な肉の塊が出てきた。しかも燻製の。
驚き過ぎて小さく悲鳴を出したのは秘密だ。
そのままあれよこれよと進み、庭に小さなBBQコンロのような物が置かれ、肉が焼かれている。いい匂いがするそれは、俺のお腹を鳴らす。
「まだだ。」
俺の腹が鳴ったのが聞こえたのか、苦笑しながら言われた。食いしん坊みたいに言うな!
「てか、燻製を焼く意味あるか?」
「こいつは半分までしか燻製にされてねぇんだよ。」
ふーん。と言いながら肉に近づくと、本当にいい肉の香りがする。いや、悪い。食いしん坊だわ。めっちゃ食いたいわ。
「ん〜、ラーメンにのせたい。」
あぁ、あそこのラーメン屋は美味かった。と思いながら故郷に思いを馳せる。いや、ガチで帰りたくなってくる。辞めよう。
「おし!いいぞ!」
おあがりよ!とばかりに俺が座っている席の前に大量に肉が乗せられた皿が置かれる。The、肉の山!うっまそぉ!!!
「いただきます!」
パチン!と手を合わせて肉にかぶりつく。ジューシーさは無いが、めちゃくちゃ乾燥している訳でもない。油身はしっかり油を感じさせ、いい感じにタレのアクセントがかかった味だ。
美味美味美味!!!!!
美味!っと感動していると、ジャックがどこにも居ない事に気づく。
あれ?
首を傾げてキョロキョロしていると、なんか部屋の中が騒がしい。.....え、まさか。
バーン!とベランダに出る扉を誰かが開ける。いや、分かっている。誰かはシルエットで十分過ぎるほど分かる。恵まれた身長にジャックよりもごつい体つき。最近伸ばしている髪は見覚えのある形をしており、後ろから追ってくる小柄のボンキュッボンの女性とはいつもセットである。
「おーい!来たぜ!」
「もう!家主より早く家に上がらないで!」
そいつがうるさく入ってくるのもいつもの事で、彼女が口うるさく注意するのもいつもの事。そして、その後にゾロゾロと2人の姿が見えるのもいつもの事。あ、今日はもう1人いるらしい。
「よぉ、功祐!」
「邪魔する。」
2人組がうるさいのと静かなのも見慣れた。もう1人がジャックの事が大好きすぎて、ジャックの部屋だ!と感動しているのも目に見えるように想像出来る。
それらがわかった上で一言。
俺明日学校。
「来たぜぇ〜ガキンチョ!」
「お邪魔するわ!功祐!」
「へぇ〜豪華だな。」
「泳ぐか。」
「こ、これがジャックさんの家!」
三者三様の感想を上げる5人。まて、誰か泳ぐって言ったか?秋だと言っても寒いぞ。
「はぁ、いらっしゃい。グレイ、メアリ、ディ、サージ、ミゲル。」
「「「「「邪魔する。」」」」」
揃った声にぶはっ!と吹き出すと共に、もう一度部屋に続く扉が開く音が聞こえる。
「てめぇら!!!大人しく玄関で待っとけって言っただろうがあ!!!!」
あ、怒った。
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「きっつ。」
未だに後ろの方でギャーギャーと騒いでいる5人を放置し、木の奥に隠れている柵に寄りかかる。この街でも上位の方にはいるこのビルの高さのおかげで、絶景が見渡せる。
微かに聞こえてくる5人の声に笑えてくる。どう聞いてもミゲルに酒を飲ませようとしているディに、それを止めようとするメアリ。しかし、メアリがミゲルに構うので嫉妬しているのかグレイがメアリにかまちょを仕掛けている。
グレイ、安心しろ。お前は思っている以上にメアリに愛されてる。
呆れながらその声を聞き酒を飲む。ここに住み始めて数ヶ月。初めの頃は出ていこうと必死になっていたが、今となっては住み慣れた我が家だ。いや、俺は金払ってないか。
ジャックに家賃を払う。と言ったら、ジャックは首を振ったので書類を探し毎月の額の一部を払おうとしたら一括払いで買いやがった。金があるなら利子が勿体ないからさっさと払え!
なんか思い出して来たら頭が痛くなる。と少し頭を抱える。金もあって顔もいいし知名度だってある。今まで女がほっとかなかったのがうなずける程の立派さだ。
「なーんで、俺なんだろうな」
単純にそう思う。今まで色々な美女がほっとかなかったはずだ。むしろ男もいたのかも知れない。それでも、俺が選ばれた。
最初なら、遊ばれていると思ったかもしれないが、今なら分かる。本気だ。あいつは本気で俺に愛の言葉をくれている。それが余計分からなくて、余計頭を混んがらせる。俺は対してイケメンでも可愛くもない。ただただ少しやんちゃをしていた分類に入り、少しだけあいつが暴力をふるってもなんとも思わない。むしろ、誰かと喧嘩していたりしても盛り上がるタイプの人間ってだけで、そんなものは探せばいくらでもいるはずだ。
いくら悩んでも出そうにない答えを探す。多分、あいつの知名度を改めて知ったからだ。ジャックは、街で歩いていれば声をかけられ、バスケをしていればただの遊びでもコートの周りに人が集まる。全米戦が決まってからはよりよく分かった。あいつがSNSに店を取り上げれば人気になるし、少し喧嘩をすれば記事になる。こんなふうにBARで遊べば記者が群がる。今は全米戦が決まったばかりと言うこともあるかもしれないが、それでも凄さは分かる。ジャックは凄い、有名で強くてかっこいい。
ほんと、なんで俺なんだろうか。
「こんなとこにいたのか」
甘い声が後ろからかかり、後ろを振り向くとさっきまで俺の思考を占めていて人物がいる。
「ジャック。」
静かに呼べば、すぐ横に柵に寄りかかる。静かに、ただ黙ってそうしているだけなのに無駄に絵になる。うん、男としてはムカつくな。
「疲れたら先に寝とけ。」
「いや、若干酔ったから風に当たってただけだ。」
酒を持ってか?と聞かれ苦笑する。
「明日どっか行くか。」
「はぁ?俺学校。」
「終わったら迎えに行く。」
「目立つだろ。」
「記者もいねぇからいいだろ。」
「確かに、いねぇけど。」
マシューズ夫妻のおかげであの無駄に多かった記者は消えていってくれた。全く、アメリカにはプライバシーがまじでない!
「海行こう」
「はぁ!?」
え、今もう秋だぞ?海?寒いだろ。え、ガチ?
「夏に行きたいって言ってたろ?」
「いや、言ったけど、夏だぞ?」
「夏は毎年シーズンで忙しいからあんま行けねーから、今年から秋に海に行くのを行事にしよう。」
「.....え?」
「そのあとは海の見えるホテルに泊まって、ディナー食べて2人でゆっくりしよう。」
な?と聞いてくるジャックに、顔が赤くなっていく。来年のことも考えてくれているのが嬉しいし、何より俺を優先してくれるってのが本当に嬉しい。しかも、約束まで覚えてくれていた。
「おう。」
口元を手で隠しながら頷くと、ジャックは軽く笑う。多分、暗いと言っても赤くなっているのはバレてる。
「功祐」
「な、んっ」
手を取られ触れるだけのキスをされる。軽いキス。
「明日な」
耳元で呟かれくすりと笑ってしまう。キザな野郎だが何故か恨めない。しかも様になっているのがムカつく。
「あぁ、分かった。」
俺も背伸びをしてジャックの口元にキスをする。ただ、触れるだけの軽いキスを。
カシャ
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