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「んうぅん。」
誰かに運ばれているのか、体全体がグワグワと揺れている。
「じゃーなガキンチョ。童貞よりも先に後ろを無くすなんて悲しいな」
グレイの何か言っている声が聞こえるが、グレイと判別出来るだけで、何を言っているかは分からない。
「ん、」
体全体に感じる暖かいものに、無意識に擦り寄る。
なんだか懐かしい感じのする温かさだ。微かに香る女物の香水と、それよりも強く香る誰かの香水の香りに無意識に笑みがこぼれる。
女物の香水は少し鼻に残って臭いが、それよりも強いこの香りが心地良かった。
「おいおいまじかよガキンチョ。
随分警戒心無くなっちまったじゃねーか。」
ぷにゅぷにゅと誰かが俺の頬を触る。
その感覚が不愉快で、腕を回しているそれにギュッと顔を押し付ける。
「やっ」
そうすると頬を触る感覚は消え、また安眠が俺の体を支配し始める。
「まじかよガキンチョ」
くすくすと女の人の笑い声が最後に、俺は深い眠りにつく。
————————————————————
「ん。」
カーテンから差し込む光が眩しくて、眉を寄せ呻く。俺の部屋のベットは、絶対に顔に光が当たらない場所に置いてあるので、俺の部屋では無いことはすぐにわかった。
「おいグレン。眩しい。」
良く泊まる友人宅だろうと当たりを着け、横にいるはずのそいつを叩くために手を伸ばす。
が、手は何にも当たらず、柔らかいベッドの上に手が落ちる。
あれ?
友人宅のベッドは、小さい訳では無いが、男は2人で寝たら当然真横同士で寝ることになるような広さだ。たしかセミダブルサイズだった気がする。
この間泊まりに行った時にかけてあった掛け布団の色は青色で.....
白だ。
.....は?まじかよ。
ガバッ!と起き上がる。
いってぇぇぇぇえ!!!!!
意味が分からないほど腰と尻と頭に激痛が走り、思わずうつ伏せに寝っ転がる。
動くだけで腰に激痛が走り、後ろの尻の部分は違和感が半端ない。
頭の痛さは間違えなく二日酔いだ。
昨日の夜を振り返ろうとしても全く記憶に無さすぎて首を傾げるしかない。
昨日は、ジャックとかグレイと飲んで、そっから、そっから、.....何した?
たしかシャンパンをめちゃくちゃ飲んで、でも、あいにく俺は下戸ではなく、どっちかと言うとザルよりなため、そんなに簡単に酔っ払う精神はしてない。
しかし、なぜか昨日は相当酔ったようだ。
頭が割れるほど痛いのが何よりの証拠だ。
とりあえず、相手は誰だ、と思い横を見る。
.....え、
そこにある山は1つ。
しかもデカい。
俺よりもデカく、身長も体格もデカい。
俺の腰の痛さと、尻の痛さが嫌な予感を浮かべ始める。
いやいやいやいやいやいやいやいや
流石にないよな?あの顔だぜ?女なんか選び放題だろ。わざわざ俺に手を出す意味がわかんねーよ。な?
.....帰ろう。
グルグルと回った頭は、素直にその答えを出した。
こんな所にいてもやばいだけだ、早く帰って大学に行こう。そうしよう。それがいい。
急いでベッドから抜けるために立ち上がろうと思うが、残念なことに座るのでさえ腰と尻が悲鳴をあげる。
自分の腰と尻の頼りなさに涙しながら、ベッドの上をほふく前進で進む。
今更気づいたが、俺は服を1枚も纏っていなかった。流石に他人の家、いや、ホテルかもしれないが、他人がいる場所で堂々と裸のままうろつく趣味はない。
掛け布団の下を進み、無駄に広いベッドの端に着く。
周りを見渡せば、リビング並に広い部屋で、ベッドの足側の壁にはデカいテレビが着いている。
ホテルだろうが家だろうが、一流の、しかも上の方のランクと言うことが伺える。
やっぱこいつら金持ちなんだな、なんて思いながら、下を向くと、俺が来ていたパーカーが落ちていた。
パーカー以外は全く落ちてない。辺りを見渡し探すと、開いている扉の隙間にズボンのようなものが引っかかっていたが、俺が来ていたものはジーパンなので俺のものではない。
.....パンツは?
大切な下着すらも見当たらないので、一瞬絶望感が頭をよぎるが、気を取り直してパーカーに手を伸ばす。
と、おい!!!!
流石アメリカンサイズというか、キングサイズと言うべきか、最高級であろうこのベッドの床からスプリングまでの距離が遠く、少し離れた位置に落ちているパーカーまで手が届かない。
かと言って立ち上がれる訳でもなく、仕方が無いので先に床に手を付きもう片方の手を伸ばす。
尻をあいつに向けているが今は気にしない!
あいつが寝ているから出来る事をして、ようやくパーカーを掴む。
「取れ、」
「何してんだ?」
たぁ!?と最後の語尾が突然の声に驚き、高い声が出る。
その勢いのまま手が滑り、床にベチャッと上半身が投げ出されてしまう。
恥ずかしいことに下半身は未だにベッドの上にある。
このまま足も下ろしてしまおう、とほふく前進を開始する。
が、その前に腰をガシッと大きな手に掴まれる。
「ひゃい!?」
驚きすぎで変な声が出てしまう。
手の主もその声に驚いたのか、手が一瞬だけ止まるが、すぐに動きを再開させ、ズルズルとベッドの上の方に引っ張られる。
「触んな!」
パーカーを手に持ったまま引きずられ、ベッドの上に全て体が上がったところで後ろ向きに蹴りを放つ。
それと同時に体をひねって俺を引きずった手の主を見ると、やはりというかなんというか、もちろんそれジャックだった。
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