よし、逃げるか

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ある一報がアメリカを賑わせた。 それは、どこの新聞社も取り上げた、ジャック・ヴァン・マシューズの家に両親が家に来て祝いをした、と言うものだったが、その1社だけは内容が違った。 【マシューズ夫妻がジャック選手の家に!!恋人の顔見せも兼ねている!?】 でかでかとそれが表紙に飾られたその新聞は、出勤をしているサラリーマン達を賑わせ、スマホをみている若者を賑わせ、テレビさえ賑わせた。新聞社もジャックと寝たという女はごまんと取材してきた。ただし、抱かれた皆が口を揃えて言うのだ。「あれは私を愛して抱いているのではない、ただの性処理だ。」と。 なのに、突然の恋人報道。それを記者達が騒がないはずがない。 「おいおい、これ、やべぇんじゃねぇ?」 グレイがそう言うと、全員が黙り込む。ここにいるのは、グレイ、メアリ、サージ、ディ、ミゲル、ジャック、俺だ。昨日そのまま泊まっていったこいつらは、朝から呆然とリビングでテレビを眺めている。 「ディ、香里奈はなんて?」 「バカを言うな。広まったものを収拾できると訳がないだろ。だってさ。」 「あと、大きな事件を起こして違う方に目を向けさせるしかないって。」 「チッ」 ディに続き、サージがそう言う。つまり、時間しか解決してくれないと言うことだ。 「幸いまだ功祐の事はバレてないわ。これから慎重に行動していけば、」 【速報です!先日ジャック選手の恋人がいるという新聞を出したバーザッシ新聞社が、今日の朝刊で新しい情報をリークしました!】 テレビから聞こえてきた声に、驚いて全員がそちらを見る。 【えー、バーザッシ新聞社によると、ジャック選手とジャック選手の恋人は既に同棲しているとのことです。】 どうですかね、これ。とコメンテーターに意見を求め始めるアナウンサー。 「クソ!!!」 ジャックが苛立ったようにソファを殴る。多分リーク元はこの間の奴だろう。あのクソチビデブハゲのせいだ。 「急いで功祐をどこかに移動させよう。出来るだけ人の目につかないところに。」 「チッ、功祐準備しろ。」 ディとジャックの言葉に俺は驚く。準備しろって、俺だけ?意味が分からないままジャックに寝室に連れていかれ、少し大きいぐらいのカバンを渡される。 「どうゆうことだよ。」 「下手に姿を撮られる前に静かなところに逃げた方がいい。」 「でもそれって、」 ジャックは来ないよな。と言おうとして止める。ジャックも考えがあってこうしていいるのだ。ど素人である俺が言える事なんてなんもない。 「功祐。」 「なに」 「必ず海に行こう。」 「スッ」 驚いて息を飲み、つばも飲み込む。 「邪魔されない場所で、ゆっくりしよう」 ジャックがそう言ってくれるのが嬉しくて笑う。 「あぁ。そうだな。」 コクリと頷きジャックに抱きつく。いきなり抱きついたのに、当たり前のように抱きとめてくれるジャック。それが嬉しくて更に強く抱きしめる。 「おい!ジャック!準備整ったぞ!」 「あぁ、今行く。」 荷物がまとまったカバンをジャックが俺に渡す。そして、そのまま手を引かれ寝室を出る。 「記者は?」 「入口を囲んでる。」 「裏もだ」 「チッ」 阿吽の呼吸で繰り返される会話を聴きながらメアリを見ると微笑まれる。メアリもグレイと交際しているのだ。グレイは多くの恋人がいたのでさほど騒がれてはいないが、それでも立場は一緒だ。ただ、俺が男ってのが違う。 「ジャック、俺達が表に出る。その隙に」 「いや、全員で表に出る。」 「「「「「「「え?」」」」」」」 全員の声が揃う。いや、うん、意味わかんねぇよ。バレないようにとかどうとか言ってたのはどうしたんだよ。 「全員フードをかぶれ。」 「着いねぇよ?」 「着替えろ。」 グレイの渾身のボケ?ボケなのかわかんねぇけどそれに即座にすっぱりと返したジャックは、グレイにフード付きのパーカーを押し付けている。 「まってジャック。みんなで行ったら功祐が.....」 「全員でフードを被って車に乗り込む。香里奈に前まで迎えに来てらって一気に突破する。」 「でも、全員顔がバレているから怪しまれるのは私と功祐よ?」 「そのためのフードだ。あと、唯一の女って事でメアリに視線が集まるはずだ。メアリはできるだけ目立て。」 「わかったわ。」 頷くメアリに俺がギョッとする。 「まて!それだとメアリがジャックの恋人って間違われて日常が大変になるだろ!」 そうだ。メアリが目立って勘違いでもされたらメアリの日常が大変になってしまう。毎日記者に追われ、グレイと一緒にいるところを撮られてしまう。 「あら、何を言っているの功祐。」 「へ?」 が、そんな俺の考えは間違っていたようで、メアリは長く綺麗な髪をパサリと手ではらうと決めポーズを取る。うん、様になっているぞ。かっこいいぞ! 俺1人がメアリの拍手を送りヒューヒュー!となる。いや、なっちゃっダメか。あ、ごめん、グレイもドヤ顔してたわ。 「ふふっ、私なら今まで色々な男との写真を撮られてきたのよ。今更じゃない。」 「色々?」 「知らないのか?メアリは結構有名な男殺しだぞ?」 「へ?」 「しかも、地味に知名度がある奴らとかを食い荒らしてたせいで記者とは友達だ。」 「うぇ?」 「ふふん!男の初恋泥棒とは私の事よ!」 ドヤ!と胸を張って見下ろしてくるメアリ。うん、見下げすぎて見上げ.....てはないな。うん。そこまでの人じゃなくて良かった。うん、ほんとに、切実に。 「茶番は終わったか?」 すかさず元の空気に戻そうとしてくるジャックにブーイングが入るが、本人は気にせずにさっさとしろとばかりに全員にフード付きのパーカーを投げている。 「本気でやるのか?」 「あぁ。香里奈はもう車を前に止めてるらしい。すぐに行く。」 大丈夫だ。と言ってくるジャックに静かに頷く。 「みんな、巻き込んですまない。」 頭を下げると、ポンっと頭に大きなでが置かれ撫でられる。 「ガキンチョを守んのは俺たちの務めだかんな!」 「喧嘩は得意だ」 「任せろ。」 「大船に乗った気でね。」 ポンポンと頭を1人ずつ撫でて4人が玄関に向かう。 「任せとけ。」 笑うジャックに、笑みを返しながら頷く。 「あぁ。」
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