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ザワザワと大量の人が入口に押しかけている。エレベーターを降りて角を曲がれば、それが目の前に見えると同時にフラッシュがたかれる。
黙々と先頭を歩くジャックに続いて俺たちも歩く。俺とメアリは5人に囲まれるように真ん中に入っている。
「ねぇジャック!熱愛は本当?」
「親はなんて!?」
「どんな子!?」
大量の声が飛び交う。俺の時とは違う。それ以上にフラッシュをたかれあの時以上に人が窓を叩くほど近寄ってくる。
さすがにエントランスには入らないのか、ロープの向こう側にいるが今にもロープが切られてしまいそうだ。
ゴクリと唾を飲むと、ジャックが自動ドアに立つ。ドアが開いた瞬間、さっき以上のフラッシュがたかれ、どんどん人がこちらを取り囲むようにジャック達に近づく。
「ねぇグレイ!ジャックの恋人について一言!」
「サージはどう?」
「マンデイ、君は!?」
「ジャック、今までの女性とは何が違うのかな!?」
ジャックだけでなく、メンバーに話を聞く。グレイはいつもこんなふうに取り囲まれたら話すそうだが、今日は眉を寄せて不機嫌そうにしている。それにより少しは記者が怯えている。
「チッ。香里奈が見えねぇ」
大量の人のせいで、ジャックが言うように香里奈が見えない。辛うじて車が止まっているであろう場所は分かる。記者たちがそこにだけは一定の距離を保っているからだ。
ドン!いった!背中に誰かが当たりよろける。咄嗟にディが支えてくれたが、俺を追い抜いた記者。無理やりディやサージの間に割り込んだ記者がジャックをまじかで撮る。
「ねぇ、ジャック!今回の恋人はそんなに具合がいいのかい?」
「あ"ぁ"!?」
「ちょ、ジャック!」
サージがジャックを止めようとするが、ジャックはその記者の襟を掴む。
「ヒィッ!」
怖がったような声をあげるがジャックは本気で怒っているのか怒りが止まらない。
「んだとこら。」
「み、みんな言ってる!ジャックは今の恋人は具合がいいから傍に置いてるって」
「っ!」
「ジャック!」
拳を振りあげようとしたジャックの腕をサージが急いで掴む。男はジャックの怒っている顔を連射している。いや、強いなお前。
「ひ、ひひっ、み、みんな言ってる。ジャック・ヴァン・マシューズがまともに人を愛せるはずないって。」
「っ!お前!」
「チっ、サージ、いい。」
「でも!」
「いい。」
サージがジャックが胸ぐらを掴んでいた男を押すと地面に倒れ込む。
「おいジャック!先いくぞ!」
ジャックとサージが、さっきの騒動で少し離れてしまう。しかし、ジャックに群がっている記者達のおかげでこっちは人数が減った。わざとなのか分からないが、グレイは俺の後ろにミゲルを付ける。
ジャックが手を挙げてシッシッとするのを見届けてからグレイが先頭を歩き始める。
「おい、日本人」
「んだよ。」
ミゲルの日本人って呼び方がちょっとイラつくが無視をして耳を貸すと深めにフードを被らされる。
「顔が見える。あと、よく声を出さなかった」
ポンポンと頭を撫でてくるミゲルに笑い返す。さっき、ジャックが手をあげようとした時俺は叫びそうになった。でも、叫ぶと目立つ。俺を隠すための全員フードなのに、意味がなくなってしまう。
「いや、止めてくれて助かった。」
俺が声を出そうとした時、咄嗟にミゲルが腕を引いてくれたのだ。ポンッと胸を叩くと、ミゲルもドヤ顔で眉をあげる。
「ミゲル。」
「はい。」
ディがミゲルに耳打ちしているのを見ながら前を見る。もう既に黒塗りの高級車が目の前に見える程近くに来ている。ジャック達も、こっちに結構近づいているので直ぐに交流出来そうだ。
グイッ
腕を軽く引っ張られる。あぁ、さっさと1人で歩いてからミゲルから1人で行くな!俺が怒られる!って文句言われそうだ、と思いながら後ろをむく。
「ミゲル、悪かっ.....っ!」
掴まれた二の腕をバッ!と振りほどこうとするが、強い力で掴まれ振り解けない。
「やっぱりいたぁ。」
にひっと笑いながら言うそいつには見覚えがある。
「お前!BARでいた.....」
「あぁ、覚えててくれたんだ。嬉しいよぉ。スクープだからね。」
片手で器用に写真撮ってくるそいつから顔を隠す。くそ!なんでこいつが、てか、なんで俺は振り向いたんだ!
「はな、せ!」
「ははっ、嫌だよ。僕はジャックを追ってもう数年になるんだ。それが、初めてのスクープなんだから僕が最初に撮らないと。」
「っ!しるか!」
痛いぐらいに締められた二の腕から血があまり流れてないのか、右腕の指先が痛くなる。
「ねぇ、見て、よく撮れてるでしょ?」
「.....は?」
男が見せてきた写真。真ん中に男のが2人、手すりに肘をかけて話しているように見える。
昨日、の?まて、撮られてる?
・・・まさか!
「ひひっ、そうだよ。うんうん、昨日はビックな写真が撮れてさ」
「っ!!!」
男がもう1枚ポケットから取り出す。そこに写っているのは、
「ひひひっ、よく、撮れてるでしょ?しっかりジャックの顔も君の顔も分かるよ。」
「お前!」
左手でくそチビデブの胸ぐらを掴む。その拍子にフードが取れるが気にしちゃ居られない。
「ひ、ひひっ、いいの、かな?ジャック・ヴァン・マシューズの最愛の人が記者に手を挙げて。そ、そんなことしたら、ジャックが」
「お、まえぇ!」
ひ、ひひひっ、と気持ち悪い笑みを浮かべるこいつの首を軽く締める。それでも笑いを止めないこいつは、写真を盾にするように俺の前でピラピラを振る。
「ジャックが、みん、なが知ったらどう思うかな?ね?ね?」
「殺す!絶対お前は!」
「ひひっ、そんなこと言ってら、て、手が滑っちゃグフッ!!!」
男が第三者の力で顔が歪むと同時に、立派な腕で俺の体が後ろに引かれる。
吹っ飛んで行った男はその場に倒れ込み、記者も一瞬黙った後にジャックと殴り飛ばされた男、あと、俺の写真を撮る。
「ジャック!」
俺が後ろを向いて叫ぶと、ジャックからフードを被せられる。
「こいつに、触んな!!」
もう1発ジャックが男の大事な所に蹴りを入れる。よくやった!じゃない!
「ジャック!やめろ!行くぞ!」
グイグイと腕を引くと、ジャックはもう1発蹴りを入れて俺の方をむく。俺はジャックの腕を引っ張るように黒塗りの車に近づくと、扉の前に立っていたミゲルが扉を開けるので飛び込むように乗る。
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