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次の日の朝には、ジャックの言葉はアメリカ中に流れた。
「『羨ましい!』『どんな恋人だろうと他人が口挟むのはおかしい!』『まぁ、有名人だから仕方ないだろ』『恋人の為にジャックが怒れるなんて!』と続々。結構賛成の声が多いな。」
「うん、昨日のは色々な意味でパンチが聞いてたからねぇ」
「うるさい。」
ノンの言葉に唸りながら言うが、ノンは気にせずに笑う。ムカつき過ぎてポケットからタバコを取り出して火をつける。
「あれ!?僕の!?」
「ちげぇよ!買ってきたよ!」
てめぇが俺から取り上げたんだうが!と言うと、あ、そうだね!と納得する。さすがに2度もスらねぇよ。.....たぶん。
「もうすぐファフニールが帰ってくる。功祐が帰れるとしたら3日後辺りだ。その間は、ここら辺はバカ共はうろつかないから好きに出歩いていいけど、」
「いいけど?」
「代わりにギャングがいっぱいだな。」
「出ねぇ!!!」
香里奈の言葉に速攻で返した俺は、苦笑するように笑われる。いや、だってギャングだぞ?いい思い出全くねぇよ!追いかけられたり追いかけられたり逃げたりしたもんな!全部同じ目にあってるわ!!!
「お供貸してあげよっか?」
「いらねぇ。」
お供って、真っ黒な黒服のサングラスじゃねぇか。怖ぇよ。後ろから刺されそう。ノンの言葉にシッシッとしながら返事を返すと同時にドカン!と扉が開かれる。驚きすぎてソファの背もたれに顎を預けていたのを離す。
「くっそムカつくぜ!!!」
「あいつらトリーツァーの敷地跨ごうとしたぞ!1発殴ってやれ!」
「うぜぇ」
上からグレイ、ディ、サージと続く。うん、おかえり。
「うるさい、もっと静かに入ってこい。」
「香里奈〜、酒ちょうだぁい〜」
ドカドカと俺を囲むように座る3人は、口々に香里奈に酒を強請る。呆れたように溜息をついた香里奈は、ニアに酒を用意するように言いつける。
「お前らだけか?」
「ジャックはここの地下に用事があるって〜」
「ショットでいい。」
ワイワイと騒ぐディに、いつも通り言葉が少ないサージ。として、何より怖いのが無言のグレイだ。いつも馬鹿みたいに騒ぐくせに、今日は無駄に静かだ。切実にここにメアリが欲しい。
てか、地下?
「地下って、なんがあるんだ?」
香里奈を見て言うと、香里奈はグレイ達と一緒に酒を煽っている。待て待て、お前絶対未成年だろ。俺の気持ちを知ってか知らずか、いや、香里奈のことだから言いたいことぐらい気づいてそうだが、ガン無視をしながらコップ全部の酒を飲みほす。まてまて、結構これ強いぞ。
「薬抜くための部屋とか、おいたしたやつから話し聞くところとか、ちょっとストレス発散するところとかかな。」
ニアが次をついでいる間に香里奈が言う。まて、それってもしかしなくてももしかするのか?怖いから聞かないでおこうと決め、俺も差し出された酒に口をつける。
「で、そいつはどこの誰だ。」
グレイが口を開くと、静かにそいつ。と顎で示す。あ、ノンの事忘れてた。馴染みすぎて完全に忘れていたノンをグレイから顎で示され思い出す。そういえば、ノンってここに何しに来てんだろ?最初は俺がタバコをスったから香里奈に文句を言いに来てて、それ、終わったよな?あれ?終わったよね?
「やぁ、はじめまして、グレイ・アンバスさん。」
目を細めて笑うノンに、グレイは警戒するように膝に肘をついて体を前に出す。サージもディも、関係ないという顔をしながら静かにノンを見ている。
「悪い癖が出たな。」
「ははっ、やっちゃった。」
香里奈の言葉に、苦笑するように答えるノン。3人が香里奈を静かに見つめるが、香里奈は関係ないとばかりに肩をくすめてツマミであろうカシューナッツを口に放り込んでいる。
「おい」
「ははっ、そんな怖い顔で睨まないでよ。別に喧嘩しに来たわけじゃないからさ。」
どうどうと落ち着かせるように手を振るが、まぁ、グレイには逆効果でグルグルと喉がなりそうなほど威嚇している。うん、ここにメアリが居たら容赦なく頭叩かれてたな。
「じゃあ、何しに来たんだ?」
ここには居なかったはずの第三者の声が聞こえて来て、全員が入口に目を向ける。
「ジャック!」
2日ぶりに見る姿に嬉しくなってソファを立つ。そのままジャックに近寄ると、ゆっくりとハグをされるので俺も背中に腕を回す。
「はぁ、無事か」
「当たり前だ。おかえりジャック」
「あぁ、ただいま。」
ギューっと抱きつきながら背中をポンポンと叩いてやる。微かに目の下にクマがあるので、苦労したのだろう。
「ただいまおかえりって.....」
「ここは家じゃないな。」
「お、俺もメアリに会いたい!」
上からディ、サージ、グレイと続く。グレイは会いたい!と言いながら顔を両手でおおっている。まてまて、お前キャラブレしすぎだ。
「分かったわかった。で、そちらさんははじめましてだよなぁ?」
ジャックはグレイの頭をグシャグシャと撫でた後、いつものようにひとりがけのソファに座りノンと真正面に向き合う。左右の3人がけのソファには右に香里奈、左にファフニールの3人が座っている。ん?誰か1人居ない気するけど気のせいか?
.....うん、気の所為だな!
「やぁ、はじめましてファフニールのキャプテン、ジャック・ヴァン・マシューズさん。」
ジャックの座っている席の肘掛に座り、先程まで飲んでいた酒にまた口をつける。
「で、グレムゾリン社の御曹司様がこのごみ溜めのような街になんの用だよ。」
香里奈がジャックの言葉にイラついたように睨むが、ジャックは気付かずにノンを睨んでいる。おい、後で殴られるぞ。
「まさか、君が僕のことを知っているなんて。」
「はっ、知らねぇわけがねぇだろ。ここ数代で大きな成長を遂げたグレムゾリンの期待の御曹司。お前がプロデュースをしたことによって、グレムゾリンはアメリカだけではなく世界でもトップシェアを誇る精密機械会社になってる。」
「ははっ、過大評価だよ。」
「どうかな、ノーバリン・ウィル・グリームリン。」
「その名は、あまり好きじゃない。ノンで構わない。」
「そうか、ノーバリン。」
はっ!と笑いながらいうジャックに、ノンの眉毛がピクリと動く。すごいぞ!いつも笑っていたノンの表情が壊れそうだ!
「ははっ、君って人は、噂いじょウブッ!」
「は?ブッ!」
・・・・・・えっと。うん。状況整理からいきましょう。やった本人以外は目を点にしてるし。うん。ノンとジャックが言い合いみたいになってた、うん、それは分かる。そしたら、香里奈がノンに酒を顔面に掛けた。うん、わからん。それに驚いてたジャックにも、香里奈が酒をかけた。うん、もっとわからん。いや、なんでか3杯ニアが用意してるな〜って思ってたよ?何でかなって思ってたけど。え、ぶっかけるようなの?そうなの?
「香里奈?」
「何すんだよ!」
「黙れ。殺すぞクソデカいだけの能無し共が。」
イラついたように2人が噛み付くが、それ以上の迫力で返された香里奈の言葉に、2人してしゅんとなって口を閉じる。おぉ、強いぞ香里奈。
「タオルをどうぞ。」
ニアが微笑みながら俺にタオルを渡してくる。ノンとジャックに渡さないのはそういう事だろう。強くなったな、ニア。何故か父親目線になりながら明後日の方角を向く。うん。あの日々が懐かしい。
「ノン。お前をここに連れてきたのは喧嘩させるためじゃないぞ」
「ごめん」
「あ?お前が連れてきたのか?」
「じゃないとここにいるわけないだろアホかお前は。」
「アホじゃねぇ。」
「説得力がクソほどねぇよボケ。互いに話し聞く気無いんだったら帰れ。」
流れるように暴言を吐きながら香里奈が言うので、2人は大人しくなる。さすがだ。
「ごめんね〜。僕の悪い癖だ。」
「いや、こっちも悪かった。で、話ってなんだ?」
ここで出来ないなら場所を変えるが、というジャックを手で制すノン。
「ここでいいよ。話ってのは、ファフニールのレギュラーに僕のバスケチームに入って欲しいんだ。」
「は?」
「「「え?」」」
はい?ジャックと目を合わせて、3人とも目を合わせて、ノンを見て、首を傾げる。なんやて?
「おい、どうゆう事だ。」
「どうゆうことも何も、そのままの意味だよ。」
「はぁ?クレムゾリンはバスケチーム持ってないだろ。」
「うん、だからNBAに作ろうと思って。」
「「「え!?」」」
え、そんなに簡単にNBAにバスケットチームって作れんの?驚いてる3人に目を向けて首を傾げると、ブンブンと首を振られる。なるほど。
「今NBAに新チームの空きなんて無いだろ。」
「いや、もうすぐチーム数を増やす為のセリが行われる。」
「その作る権利を競り落とすってか?」
「あぁ。」
「はっ、出来なかったら?」
「それは無い。」
「もう根回しも終わってるって事か。」
「あぁ、当たり前だろ?」
ニッと笑うノンに合わせて、ジャックも笑う。
「他のメンバーは?」
「まぁ、それは会ってからのお楽しみだね。」
「はっ、いいぜ。ファフニール全員お前の新チームとやらに付き合ってやろうじゃねーか」
「いいのかい?僕は、主力だけが欲しいんだよ?」
「それは練習を見てから決めな。」
悪い笑みを浮かべる2人。関係ないとばかりに酒を飲む香里奈。意味がわからない俺。
「え、勝手に俺ら売られてる?」
「売られてるな。」
「拒否権無くなったぜ!」
うそん。と言う1人に、虚空を見上げる1人、大声で笑ういつもの調子を取り戻した1人。十人十色の反応が広がっている。
これ、結果オーライみたいな?
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