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「ん"〜。」
声が枯れている気がする。と思いながらベッドから這い出すと、もうカーテンの隙間からサンサンと光が差し込んでいる。帰ってから秒で服を剥かれ、そのままリビングのソファでやった。まるで数日間の穴を埋めるように何度も繰り返される行為に、泣いて拒んだ記憶がある。
てか、この3日間も香里奈に怒られるぐらいにはやってましたけどね!なのに、足りなかったとかどうとかいって、気絶するまでやられた。くっそ腰いてぇ。
体が痛いだけで不快感がないので、俺が落ちた後にジャックが綺麗に拭いたんだろうな。と思いながらベッドから体を起こす。季節はもう冬だ。くっそ寒。と思いながら、いそいそと近くにあるひざ掛け程の毛布を羽織る。
「あ"〜、アーロン、暖房付けて。」
《ピピッ、暖房を22度に設定しています。》
人工知能の声が聞こえた後、直ぐにエアコンが稼働するのが分かる。ジャックがこの間、動くのめんどいな。と言って買った。いるか要らないか戦争はしたが、いつの間にか届いたことで敗戦確定試合だった。まぁ、ありがたいことに、ジャックが家電に興味なしで高いのを買っていたおかげで、買い直すことはなく全部AIに登録出来た。
ちなみに、人工知能の名前はHOMEといえばアーロンだろうと言うことで決まった。たぶん、クリスマスが近いと言うこともあるだろう。
「功祐、寒くないのか。」
んんっ。と言いながら目を覚ましたジャックに、笑いながら頭を撫でる。相変わらずサラサラで寝癖1つついてない。
「ん、今アーロンで暖房付けた。」
「そうか、なら、温まるまでもう少しあるだろう。」
来い。と言って自分の横を叩くジャックに、はいはい。と言いながら大人しく寝っ転がる。
目の前でサラサラと落ちる柔らかい金髪を撫で、ゆっくりと梳きながらオールバックにさせる。すると、整った顔がよく見てるので、その顔を一つ一つ確認するように撫でていく。
「なぁ、」
「ん、なんだ。」
くすぐったい。と言いながらも、止めさせようとしないジャックに甘えながら、話を続ける。
「もうすぐクリスマスだろ?」
「あぁ。」
「どうする?」
「何がだ?」
はて?と首を傾げるジャックに、撫でていた手を止め、自分の方に戻す。
「アメリカでは、クリスマスって家族で過ごす行事だろ?日本では恋人と過ごす時間だから、俺は日本には帰らねぇけど、ジャックは帰るだろ?」
「あぁ、それなら安心しろ、イブなら帰らなくていいと言われた。」
はて?と次は俺が首を傾げる。ジャックの両親なら、帰ってくることにめちゃくちゃ喜びそうなのにと思っていると、ジャックが俺の手を取って自分の頭に置くので、くすくすと笑いながら撫でてやる。
「お前の両親が?嘘だろ。」
「本当だ。まぁ、イブは俺の誕生日だからな、イブは恋人と過ごして、クリスマスにはお前を連れて実家に帰ってこいだとよ。」
寒っと言いながら、体を丸めて布団に潜り込もうとするジャックの顔を慌てて引っ張って上げさせる。いてっと聞こえた気がするが聞こえてない。
「はっ?待て待て待て。」
「あ?」
「お前、誕生日って.....」
「あ?12月24日に決まってんだろ。」
ピシャーん!と俺の中で雷が落ちる。あれ?おかしいな、外はこんなに晴天でピカッピカに太陽光ってんのに、俺の中大豪雨なんだけど?
「は?誕生日なんか聞いた事ないんだけど?は?」
「なに、キレてんだよ。」
は?キレるわボケ。恋人の誕生日知らなかったとか致命傷だろ。
「あ〜、くっそ。もうイブまで1ヶ月切ってんじゃねぇか。」
「別に、俺はプレゼントは、おれ♡ってしてくれてもいいぜ?」
ニヤニヤとしながら言ってくるジャックに、本気でぶん殴ってやろうかこいつ。と思いながら布団の中で太ももを蹴る。
「は?誰がするがボケ。てか、なんで誕生日言わなかったんだよ!」
「調べれば出てくる。」
「なんで恋人の事をネットに頼んなきゃいけねーんだよ。」
「.....お前、前俺の好きな物ネットで見てたろ。」
あ〜。と言いながら思い出す。確かに、同居し始めのころ、こいつが何が好きとか言わなかったから調べてたわ。ってか、そんとき恋人じゃねーよ。
「ったく、まぁいい、取りあえず今日は買い物行くんだろ。」
「あぁ。なに買いに行きたい?」
枕に顔を埋めながら聞いてくるジャックに、俺もうつ伏せになり、指を折りながら買いたいものをピックアップしていく。
「ん〜、まずは冷蔵庫の中身を補充しねぇと。」
「まぁ、結構放置してたからな。」
そう、あの騒動で香里奈の家にいたせいで結構な材料がダメになっていた。くそ、高級肉がパーになってた。許さんあのハゲデブ。
「あとは〜、」
「指輪を買いに行こう。」
「は?」
「恋人を公開したなら、俺も指輪を付けれるだろ?下手に勘ぐられるより、見せつけた方が早い。」
そう笑うジャックに、俺はゴクリと喉を鳴らす。さっきまで折っていた右手に視線が集中する。ちょうど、薬指と小指が立っている。その根元には、今はハマっていないが、微かに残る感触がある。あの日の、あいつの目の前から消えた日にハマっていた指輪の感触。
「指輪は、まだ早いだろ。」
「はぁ?」
ジャックの顔が見れずに、ひたすら右手の薬指に残る感覚が嫌で左手で指を引っ掻く。
「正式に、お前の両親に挨拶してから買いに行こう。2人で、一緒に。」
な?と言うと、ジャックは若干不貞腐れたようだが、何も言わずに布団に潜り込む。
「なら、お揃いのピアスでつけよう。」
サラりとジャックが撫でた俺の耳には、長いことピアスは埋まっていない。昔空けた穴が塞がっていいるかいないかは分からないが、そうだな。と笑って返す。
「ジャックはごっついの似合いそうだな。」
「お前はダイヤだけとかだな」
お揃いになんねーじゃん。と笑うと、ジャックも微笑む。うん、どうやら機嫌は治ってくれたらしい。
「朝飯はどうする?」
「作れ」
「はいはい。」
「俺は着替え取ってくる。」
2人で出かける時、俺の服を決めるのはジャックだ。確か、男が女に服をプレゼントするのは、脱がせたいって意味だから覚えとけとか何とか言ってたな。いや、プレゼントはされてない。プロデュースはされてるけど。いや、ここにある服ってほとんどジャックが買ってくれた服だよな?
あれ?と思いながらも、思考を追い出しながらベッドから立ち上がる。
「コーヒー?ミルク?」
「コーヒー」
_______________________________________
お揃いのピアスを買うために、色んな宝石店やアクセサリーショップに行くと、高級な店なだけあって一切私情を挟まず、しかも、嫌な顔も珍しがる顔もされずに接客された。高級店って最高!と再確認しながらジャックとピアスを選んでいき、お互いが納得するものを見つけてジャックがカードで支払った。俺?財布すらいつの間にか取られてた。
その後、1回マンショに戻って、車とピアスを置いて近くのスーパーに行った。まぁ、やはりというかなんというか、ジロジロと好奇心の目線にやられたが、ジャックは宣言通り俺と終始恋人繋ぎでスーパーを見て回った。
ちなみに、SNSには、ジャックがスーパーに行ってる!とか、恋人と一緒にいる!とかがめちゃくちゃ取り上げられてた。これ、トレンド入りすんじゃね?
まぁ、そんな事はのちのち知ったが、その時はカゴに食べたいものを入れていくジャックに、母親になった気分でダメなものなんかも返してこさせながら買い物を済ませていく。
「ジャック、これいるか?」
「あ?美味いだろ」
「却下」
「あぁ!?」
アイスコーナーでは、
「これ!」
「多いわ!何日かかって食わなきゃなんねぇんだよ!何年分!?」
「これが普通だ。」
「くっそ、アメリカンサイズデカすぎだろ!日本の小さいサイズはねぇのか!」
「まぁ、日本人はちいせぇもんな。」
「あ?お前、俺の身長と股を見たか?あ"ぁ"?」
そんなことをしながらも、肉に野菜に卵。日用品なんかもカゴに入れていく。ジャックがいるおかげで、多少荷物が増えてもいいと思いながら色々と買っていく。会計はもちろんジャックが支払い(これについては、ジャックが日常のお金を出す代わりに、俺は家事と言うことが決まっていたため財布は出そうとも思わなかった。)、袋3つ分になりながら手に持った。
アメリカドラマとかでよく見かける茶色い紙袋を、ジャックが左手で2つとも抱えてしまったので、俺は右手に1つを抱えて片方は手を繋ぐ。しっかりと恋人繋ぎをしながら、車がよく通る大きな道路の歩道を歩く。まぁ、言うてマンションまですぐそこだ。風呂上がったらお互いにピアスをつけ合おうとか、晩御飯はなんにしようとか、明日は練習しようとか、いつも通りの会話をしながら歩く。
パパラッチが時々いるのか、ジャックはむしろ見せつけるようにどっかを向いて鼻で笑っている。うん、まぁ、いいけどさ。
「ほら、鍵開けるから手を離せ。」
「ん」
忘れてた。とばかりにようやく手を離したジャック。少し手が寒いな、なんて思いながら指紋でロックを外して扉を開ける。先にジャックを入れて、俺も続いて入って行く。
「台所に置いてくれ。」
「直ぐに風呂入るだろ?」
「あぁ。」
わかった。と言いながら、前まで貯めることの無かったお湯を、浴槽に貯めるためにジャックが風呂場に行く。こういう時、俺って愛されてるなぁ〜と実感する俺は、嬉しくなりながらキッチンに俺の持っている荷物を置く。
Boo〜〜〜Boo〜〜〜。
「あ、俺か。」
バイブ音がお尻に入れていたスマホから鳴り、急いで取り出す。そこに表示されているのは、いつの日かの漫画を送ってくれた親友の名で、珍しいと思いながら電話を取る。
「もしも、ちがった。『もしもし。』」
いつものように英語で話しかけ、やってしまった。と思いながら日本語で話しかける。まぁ、また、アメリカに染まりすぎだ!と小言を貰うが仕方ない。と思いながら言葉を待つが、思った以上に緊迫した声が聞こえてきた。
《『功祐!!!』》
久しぶりに聞いたが、たしかに親友の声で、その声が慌てているような声に驚く。
『どうした?』
《『よかった、繋がった!!』》
『おい、隼人、落ち着けって!』
よかった。と何回も繰り返し、そしてはぁはぁと大きく呼吸をしている隼人に、声をかけるが、隼人は声を震わせている。
ジャックが帰ってくる前に寝室に行って鍵をかける。この緊迫した空気をジャックに邪魔されたくはなかった。
《『はぁはぁ。功祐、ごめん、ごめん』》
『隼人?』
息を整えながら謝ってくる隼人に、更に俺の頭は混乱する。隼人に何かされた訳でもないし、何かが俺の周りで起きた訳でもない。意味が分からず先を促すと、隼人がゴクリと唾を飲む。
《『春雪が、居なくなった。』》
は?と言う言葉は、口から出ることなく体に消える。隼人の言葉をすぐに飲み込めず、グルグルと頭の中を回ってようやく溶け込む。
『どう、ゆうこと?』
《『さっき春雪の親から電話かかってきて、もう一週間帰ってないって。居場所を知らないかって聞かれて。』》
『は?』
《『それで、何人かで手分けして思い当たるとこ手分けして探してんだけど全く居なくて。でも、お前のとこなわけないし、てか、あいつが知るわけねぇし』》
どくどくと心臓が嫌な音を立てる。心臓は大きな音を立てる癖に、頭はどんどん冷めていって、血の気が引くのがわかる。
『はる、ゆ、きが?』
《『お前、今アメリカだよな?』》
『当たり前だ!日本に帰るなんてアメリカきてしてねぇし、春雪に知られる事なん...て........』
まさか、と思いいたり唇に手を当てる。まさか、まさかだよな?
《『功祐?』》
『俺の、せい?』
《『功祐!』》
『なぁ、春雪がアメリカにいるってことは、ない、よな?』
功祐?と扉をノックしながらジャックが俺を呼ぶ声が聞こえる。
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