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真っ青な晴天。真っ白な雲とどこまでも続く青い空がひたすら視界に収まる。背中には、冷たいコンクリートがじわじわと背中に染み込んでぬるくなっていくのを感じる。そして、鼻をくすぐるのは自分の吸っているタバコと、相方が吸っているタバコの匂いだけ。
「なぁ、功祐」
「なに?」
「暇くね?」
「暇いな」
昼休みまえの4限目。それは、高校生にとっては空腹と戦うキツい時間だが、俺たちは無視して屋上で寝タバコをしている。
「なぁ、功祐」
「んだよ。」
「しりとりしね?」
「は?」
意味がわからん。と言いながら春雪の方を見ると、にひひっと笑って赤い髪をサラりと動かして俺の方を見る。あ、灰が落ちた。
灰が落ちて、赤い火がついていた場所がうっすらと見える。
「えぇ、いいじゃん」
「はいはい。じゃあ、しりとり」
「そのノリ最高。りんご」
「ごりら」
「ラッパ」
「ぱんつ」
「冷たい」
「いやよ」
「よして」
「てめぇ」
「えっち」
「痴漢」
はい、俺の負け。と言いながらタバコの灰を離れた位置で落として咥え直す。
「はぇ〜よ。」
「るっせ。」
「てか、お前ぱんつとか言うのな。いつもパンティーって言うくせに」
「言わねぇよ」
勝手な捏造をされているので突っ込むと、ケラケラと春雪は楽しそうに笑う。なんもなくてもお前人生楽しいんじゃないか?
「しかも、いやよってなんだよ。」
「いや、お前の女声のよしての方がキモイわ」
「功祐のドスの聞いたてめぇの方が何倍もこえーわ。」
いや、その場のノリだろ。と言うと、春雪はノリって大事だよな、としみじみと頷く。いや、お前ノリでなんかあったのかよ。
「てか、お前のえっちも意味わかんねぇわ。」
「いや、そのあとの功祐の痴漢ってもっと意味わかんねーよ」
「いや、ほら、やっぱえっちって言われたら男として痴漢するっきゃねーだろ。」
「おいおい、罪を重ねるな!故郷のママが泣いてるぞ!お前はそんな親不孝でいいのか!」
「えーママもう死んだんで〜」
「あ、そうっすか。」
ぷはっ!と吹き出し2人でゲラゲラと笑う。何が面白いか分からないが、何となく面白い。高校生とはツボ浅いものなのだ。ひたすら笑っておく。
「てか、罪って、俺たちの年齢でタバコ吸ってるのも罪だろ。」
「あ〜、そういやぁそうだな。」
「止めるか、タバコ」
「おぉ。」
・・・・・・。
「おい、春雪止めろよ。」
俺がそう言うが、春雪はぼーっと空を眺めたままやめる気はないようだ。まぁ、俺もないけど。
「いや、先に言い出した功祐から止めろよ」
「いや、俺ニコチン切れると死ぬ病気だからさ」
「いや、逆だろ。」
また、ぶはっ!と吹き出すとゲラゲラと笑う。 笑っていると、ちょうど、チャイムが鳴る。そして、4限目の終わりのチャイムがなった瞬間扉が開く音がする。
「あ〜きっつ。って、お前ら今日もいたのか」
「お、山ちゃん」
「お〜す。」
俺が山ちゃんっと呼ぶと、嫌そうに顔をゆがめた山ちゃんこと山田先生は、フェンスに寄りかかってタバコを咥える。
「山ちゃん知ってる?ここって喫煙所じゃないんだよ?」
「るっせぇ、じゃあ、お前らも喫煙所行け」
「俺ら未成年が行ったらセンコーに怒られるじゃん!」
「俺もそのセンコーって事忘れてないか?」
忘れてないよ〜。と軽く言う春雪に、山ちゃんがならいい。と言ってタバコを吸い始める。待て待て、教師なら止めろ。
「あ、」
ピコン。とスマホの着信音が鳴ると同時に、春雪がスマホを見て声を上げる。
「彼女?」
「そう!千紗ちゃん!」
「か〜、学生時代は簡単に沢山彼女が出来ていいよな〜」
羨ましい!という山ちゃんに、俺らはジト目で見る。
「山ちゃん、学生でモテてないだろ。」
「おい、この口か?この口が生意気言ってんのか勝平。」
「いひゃいひゃいひゃい」
ぐにゅぐにゅとほっぺを捕まれ引っ張ったり顔を歪められたりする。やめろ!これ以上顔を歪めさせるな!
「じゃ!俺千紗ちゃんの弁当あるから!」
にヒヒヒっと笑いながら屋上を後にする春雪に、はぁ、とため息をついて手を振って見送る。背中が見えなくなると同時に扉は閉まり、シンとした空気が屋上に広がる。
俺も山ちゃんも気にせずにタバコを吸っている。1回吸って、吐いて、もう1回吸って、吐く。もうタバコが短くなったのでもうそろそろ止めなくてはいけない。しかし、俺たち学生にタバコは高級なものなので、なかなかどうしようかと迷ってしまう。
ラスト1回。と決めて吸って吐いてタバコを地面に押し付ける。
「なぁ、山ちゃん。」
「なに?」
「英語教えて。」
「俺、国語教師って知ってるか?」
「知ってる。」
「特に、古典って知ってるか?」
「すんごい知ってるけど?」
たしか、山ちゃんは俺のクラスの担任じゃないけど俺のクラスの国語を担当している。ほかのクラスだったら古典だけ、とかあるらしいが俺たちは国語全部だ。
「なぁ、勝平。」
「なに、山ちゃん」
「国語と英語って結構真逆だと思うんだよね。」
「そう?同じ語学じゃん。」
「ん〜、そうなんだけど〜、俺はちょっと、いや、だ〜いぶ違うと思う。」
「へ〜」
「だから、英語の事は英語の教師であるお前の担任に聞け。」
「え、嫌だよ。あいつ嫌いだもん。」
「うんうん、俺も苦手だけど教えてもらえ。」
「え〜、山ちゃん教えてよ。」
「だから、俺は国語教師!」
「でも、山ちゃんって教師なんだよな?」
「え?俺ってそっから?そうだよ。教師に決まってんじゃん。じゃないとお前らに色々教えれるわけないじゃん。」
え、俺って教師か疑われるほど教え方下手くそ?とかどうとかブツブツ言っている山ちゃんを放置して疑問をぶつける。
「教師って、頭いいよな?」
「ん〜?」
「なら、英語も教えてくれね〜の?」
「よ〜し、勝平。お前には常識と言うものから叩き込まないといかないらしい。よし、そこになおれ。特別授業だ」
「なおってる。」
「それな寝っ転がってるって言うんだよ!」
ほれ、起き上がれ。と足を叩く山ちゃんに、仕方ないなーと言いながら体を起こして座る。山ちゃんじゃなけりゃあ1発殴ってどっかいってたわ。
「はいはい。起きました。」
「おし、じゃあ特別青空教室だ。」
「それ、戦後だな。」
「はいはい。では、お前はまず、得意不得意ってことを知ってるか?」
「知ってる。」
「うんうん、なら、俺が英語が不得意ってことは知ってるか?」
「そうなの?」
何回も言ったぞ俺。と言いながら山ちゃんが頭を抱えるので、とりあえず頭を撫でてやる。
「うんうん、だから、俺は英語が不得意だからお前には教えらんないの。」
「ん?だって今美ちゃんは俺に英語教えてくれたよ?理科の先生なのに。」
「おま、俺たちのアイドル今宮先生をそんなあだ名で!羨ましい!てか、教師には!頭がいいのもピンからキリまであるの!俺はそれの下!」
下!と言われてうん。と納得する。なるほど、山ちゃんは英語が苦手で、今美ちゃんは英語が得意だったのか。
「なるほど。」
「おーし、納得したな、よしよし。」
最後まで言わせやがってこんにゃろ。と言いながら、山ちゃんが俺の頭を撫でる。やめろ、山ちゃんみたいに薄毛になる。
それより、山ちゃんからは英語が習えないとなると誰から習おう。と考える。山ちゃんはこの通り、不良教師だから、素行が悪い俺たちの相手をしていても教師達にも納得される。てか、指導していると思っているらしい。まぁ、俺たちが山ちゃんの前では大人しいからだろう。
今美ちゃんから習えばいいとなるかもしれないが、それは出来ない。今美ちゃんは、さっき山ちゃんが言った通り学校のアイドル先生だ。そのため、俺たちと一緒にいると嫌な顔をされる。今美ちゃん自体は俺たちを快く向かいれてくれるけど。
「ん〜。」
「おまえ、英語に対する情熱を国語に向けろよ」
「ん〜」
軽く唸るだけで答える俺に、山ちゃんは呆れた顔で俺を見てくる。
「勝平?」
「うん。あのさ、山ちゃん。」
「なんだ?」
「悩み聞いて。」
もう一度寝っ転がりながらそう言うと、山ちゃんは驚いた顔をして俺を見てくる。え、俺ってそんなに悩みないように見える?
「教師人生初のお悩み相談だ!ドーンと任せろ!」
なるほど。やる気の意味がわかった。と思いながら頷くが、正直いって山ちゃんじゃ少しだけ不安だ。まぁ、今美ちゃんにはすこーしだけ話したけど笑って受け入れてくれた。
「うん。じゃあさ、山ちゃん」
「なんだ?」
「俺が春雪のこと好きって言ったらどうする?」
「・・・・・・」
「山ちゃん?」
無言な山ちゃんに、やらかしたか。と思っていると、山ちゃんがタバコを消して立ち上がる。ビクッ!と反応するが、山ちゃんは俺になにをする訳でもなく早足で屋上を去る。
無言で出ていった山ちゃんに、あぁ、やっぱダメか。と思いながら山ちゃんが押し付けたタバコを見る。まだ結構長い。まだ吸えるそれに、俺のせいで悪いことしたな〜と思いながら目の上に腕を置く。やっぱり、受け入れてくれた今美ちゃんがおかしいのだ。
ダダダダダダ!!!!
なんか、バタバタと言う音が聞こえてくる。は?と思いながら体を起こしてそちらを見ると、バタン!と扉が開かれる。そこに居たのは、はぁはぁと大きく呼吸をしながら顔を赤くさせている山ちゃんだ。
え〜っと?と首を傾げると、山ちゃんは大股で俺に近づいてくる。そのあまりの迫力に、怖くなって後ずさるが山ちゃんの歩く方が早い。怖くなってキュッ!と目をつぶるが、痛みは来なく、むしろ目の前でパン!と言う音が聞こえる。
「こういうことか!!!」
はい?と思いながら目を開けると、目の前には山ちゃんが正座をして座っており、俺と山ちゃんの間には袋に入った雑誌程の大きさの本が何冊か飛び出している。
はい?と思いながら雑誌に手を伸ばすと、そこにはどう見ても男同士で濃厚なキッスをしている漫画絵。
「っはぁ!?!?」
「うんうん、そう言うことなんだな!」
「ちが、って、何この本!?」
「俺と今宮先生が今日交換する予定の本だ。」
「はぁ!?え、は?交換って、ちょ、まって、俺がついていけてない。」
「理解するな!感じろ!」
「無理だよ!」
むちゃくちゃなことを言う山ちゃんに呆れながら、俺は本を袋の中に戻す。全く。俺は別に春雪とこんな感じになりたいわけじゃないっての。
「うぅ!今宮先生が言ってたのはお前らの事か!」
「はぁ!?今美ちゃん言ったの!?俺のプライバシーは!?」
「いや、とある生徒の悩みを聞いただけで、名前は聞いてないから大丈夫に決まっている!」
「くっそ!くっそかお前ら!」
「なんとでも言え!俺は応援する!」
だって!!全っぜん推せるから!!と叫ぶ山ちゃんに、意味がわからない。あ、チャイム鳴った。まぁ、春雪はどうせ千紗ちゃんに連れていかれて授業に出てるだろうからほっといて話の続きをする。
「別に、おれ春雪に気持ち伝える気ねぇんだけど。」
「........え?」
今までは珍しく生き生きとしていた山ちゃんの目が、一気に死んだ魚の目になる。いや、切り替え早いなおい。
「俺が英語を勉強してんのは、春雪を高校卒業するまでに忘れれなかったら、忘れるために海外に飛ぶ予定だから。」
「は?」
「だから俺はどうこうなる気はないの。わかった?.....山ちゃん?」
な、泣いてる。山ちゃんは、悲しそうに泣いている。いや、いきなりなんで泣いてんのか意味わかんねぇんだけど。え?なんで?
「うぅ。俺の推しが、推しカプがひとつ減った.....」
「意味わかんねぇけど、減ってくれて良かった気がするわ。」
慰めようと思った手を引っ込めてそう言うと、山ちゃんはそうか。と悲しそうに頷く。
「まぁ、お前がそれでいいならいいが、俺や今宮先生はいつでも相談乗るからな。」
「.....うん。」
「それと!進展あったらぜひ教えてくれ!」
「嫌だ。」
「なんでだァァァァ!!!」
「怖いもん。」
今宮先生に言うんだ!と叫ぶ山ちゃんに、まぁ、今美ちゃんには言いそうだな。と思いながら頷く。更にうるさくなった。
「まぁ、うん。少し情けないところは見せたが」
「だいぶな」
「うぐっ。ま、まぁ、伝えるも伝えないもお前次第だけど、俺らは応援してるからな。」
くしゃくしゃと頭を撫でてくる山ちゃんに、なんか恥ずかしくなって頬をかく。
あ、
「ねぇ、山ちゃん」
「なんだ?」
「もうひとつ悩み聞いて。」
「なんだ?」
「英語教えて。」
「却下!!」
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