1.灰色の街

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1.灰色の街

 この街は腐ってる。  生まれたときから、周りの誰もがそう言ってた。  じゃあ、跳んでさ。この街、出てこうぜ!  なんて言ったらさ、みんなこう言うんだ。 「できねえよ。しかたねえ」  異臭がするぜ。  雑音が混じるぜ。  この街は腐ってる。間違いねえ。それは、この街に住んでる大人がグズだからだ。  足がついてんだろ?  両手広げりゃ、翼が生えるぜ?  できねえよ。  なんてさ。  そりゃ、街のせいじゃねえ。足を踏み出さない。翼を広げない。その勇気がない。  だから、できねえのさ。  耳を覆うヘッドホンから爆音が響く。この爆音で、この街の雑音をかき消すんだ。  言い訳聞いてちゃ、のまれちまう。  愚痴聞いてちゃ、前が見えなくなっちまう。  だから、"THE PINK STOCKING CLUB BAND"の『STRAWBERRY』を鼓膜に叩きつけながら、今日も壁を駆け登る。駆け上がった壁のてっぺんに指かけて、ぐいっと上体を持ち上げる。壁のてっぺんの風は、くぐもった下の空気より気持ちよくって。  右手を水平にして、額の上にのせる。遠く、夕暮れの橙が深い。  そのままぐるり一周見渡すと、ぎゅうぎゅうに詰められたビルばかり。緑なんて見えやしない。ぎゅうぎゅうのビル群の周りを壁が囲んでる。  ビル群より高くて忌まわしい壁が、黒々とそびえたっている。俺たちはこの壁の中でしか生きられない。  いや、そんなの、まっぴらだ。  1秒でも早く、あの壁を越えるんだ。
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