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今まで見た中でも一番低い姿勢で、テレヴィはスケボーを強く蹴りだした。
でこぼこした土もテレヴィには関係ない。迫り来るテレヴィは獣のようだった。
スロープに差し掛かった。土を薙ぎ払う音から、木とウイールが擦れる音に変わる。スロープはびくともしない。暗くて見えないけど、アンプが得意気に笑っているのが見えた気がした。
低い姿勢のまま、風に同化したテレヴィがもう目の前に迫る。テレヴィが人差し指を上げて合図した。
スロープの側面を蹴り、宙を飛ぶ。集中しろ。目を見開け。神経よ、全てを足に注ぎ込め。
飛び上がって降りていく両足と、向かってきたテレヴィの両肩がぴたりと合う。
まだだ。膝を使ってクッションを意識する。テレヴィの負担を減らせ。柔らかく膝を曲げ、テレヴィの肩にかかる負担を和らげる。そっと、テレヴィの頭に手を置いた。
「乗ったぜ、テレヴィ」
「気を抜くな、すぐだぞ」
目の前に急斜面が聳えている。テレヴィが一層身体を低くした。一気に急斜面となったスロープを滑りゆく。
もう、ずいぶんと高い。それだけテレヴィのスケボー技術が高いのだ。スロープの先が見えてきた。テレヴィも俺も身体が地に対して平行になる。
「行くぞ、ラジオ!」
轟音とともに、テレヴィがテールを蹴り上げた。俺が乗ってるのに、そのテレヴィのオーリーは、今まで見た中で一番高かった。
「今だ、飛べっ」
テレヴィの肩を蹴る。
この瞬間まで俺は考えていなかった。この高さで俺はテレヴィを蹴り落とす形になる。テレヴィは、大丈夫なのか? 咄嗟に首を振る。考えるな。任務を果たせ。
今までで一番飛んだ。空だ。もう、完全に空に届いてる。忌まわしい壁が眼下に見える。目線を上げる。今まで見えなかった壁のてっぺんが見える。指先に神経を移す。
とどけ。
伸ばした指先が壁のてっぺんの縁に届いた。尖った石に指が刺さる。それをフックに、第一関節だけで踏ん張る。足だ。壁に足先をかけて、思いきり伸び上がった。
這いつくばるように、壁の縁へ身体を預けた。指から血が滴っている。
痛くも痒くもねえ。だって、そうだろ。
届いた。届いたんだぜ。
壁のてっぺん、確かに両足が乗っかっている。この高く忌まわしい壁を踏んづけている。
振り返り、眼下を覗いた。
スロープの先からこちらめがけて走るアンプの姿が見えた。
地面に叩きつけられたのであろうテレヴィが起き上がるのが見えた。
やった。やったぜ。
担いでいたロープを足もとに下ろす。あとは二人を引き上げる。それだけだ。
壁の向こうが見えていた。
なぁ、テレヴィ、アンプ。先に俺が見ちゃったけど、ほら、天国の向こうが見えてるぜ。
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