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第一話 風呂と天窓と、すぐいなくなる探偵の話
「みはる~、助けてぇ、殴られた」
「うん」
僕は小さくうなずいて、薄闇の中で光る液晶画面を見つめている。
安いノートPCの画面上にびっしり並ぶ文字の列。
そこで展開するのは、この世で僕しか見たことのない、血湧き肉躍る探偵物語だ。
しかも今はとってもいいところ。
探偵が真実に近づいたかと思いきや、犯人の逆襲に遭ってピンチになるところだ。
そりゃあもう、指も胸も躍りっぱなしですって。
「うんじゃなくて、ほんと痛い……ほんと痛い、洒落になんない、痛い。って、わ、血ぃ出てるよ、みはる、貴重な血液資源がけっこうだばだば出てるよーもったいないよお」
背後をがさがさと行き来する気配に、僕はちょっとだけ背筋を伸ばしてスペースをあけてあげる。
僕がいるのは名探偵の探偵事務所。
元はせまーいスナックだかバーだかで、今もほとんど改装されてはいない。むしろ探偵と僕の荷物が新たに積み上げられて、ますます狭くなっている。
「気をつけてね、さくら。床汚れたら、掃除大変だから」
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