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まぁいいや、ヒロさん知り合いみたいだし、任せとこ。無理に喋らなくてもいいや。
元いたところを振り返ると、玲次がそれに気がついて席を立ってきた。
「なに逃げてんだお前は」
「逃げてないし」
「ヴォーカルだから、ギターのことはわからんでもいいと思ってるだろ」
「思ってる」
「そうだよな、お前には覚えらんねぇよな」
ちょっとそれは失礼だぞ。僕だってそこまでバカじゃないんだから。
「じゃ、いいよ。今度ギター教えてよ」
玲次は僕の手首をつかみあげ、せせら笑った。
「指、届くのか?」
「何なんだよ」
喧嘩売ってんだろうか、こいつ。でも、そうじゃないことはわかってるから、本気では怒れない。
「できる! 指届く」
「3弦くらいまでか」
「全部、6弦!」
玲次が掌を重ねる。と、歴然とした差が…。
「失格」
「ほっとけよ」
「残念だったな。歌、歌っとけ」
「言われなくても!」
僕も何でこんなこと言われながら、こいつの恋人でいてやってるんだよ。ほんと口悪い。やめてもいいんだぞ。
「玲次」
崇純さんの声に振り返ると、会場を一周して来た彼が、ビール瓶を持って割り込んでくる。
「お前な、あ、グラス持て」
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