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「今日は絶対、見ていけよ?」
「大丈夫。一瞬だって見落としてやらない」
もう心配することもないことを、アッシュが念を押す。SEを聴きながら、そんなアッシュを可愛く思う。
「じゃあ」
行きかけたアッシュの袖を、きゅっとつかむ。
「崇純?」
「忘れ物」
悪戯っぽく笑い、彼の胸元に顔を埋める。彼の香水の香りが鼻をくすぐる。何を使っているのだろう。華やかで、優しい香り。
「…ああ」
アッシュは崇純の残したものを見て、頷く。彼の真っ白な衣装には、崇純の口紅の跡。彼も崇純の黒い手袋にキスを贈って、歓声の中、ステージに出て行く。
それは、できることなら正面最前列で見たいようなステージだった。
あってはいけないことなのかもしれない。しかし、彼の歌はすべて崇純一人の為のように聴こえた。
彼は時折さりげなく、袖で見ている崇純に視線を送る。崇純は切ない痛みを楽しみながら、アッシュを見つめ続けた。
「いいだろ? ノアール」
狂絵の問いかけに、こくんと頷く。もう誰に隠し立てする必要もないから。嘘は自分についていだだけだ。
「崇さん、昨夜も喧嘩してたらどうしようかと思った」
「上手くいかないわけ、ねぇだろ。俺とあいつだぞ」
「すげぇ変わりよう。やられるなぁ」
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