さよならの前に

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目が慣れてきても見える景色は豪華な綺麗な場所でもなく。 長く放置されてきたのがよくわかるような古びた建物だった。 祭壇のようなものが1つ。 そのまわりには供物が乗っていたと思われる、今は空っぽの銀色の器がある。 私が召喚された場所によく似ている。 キースさんはローブを羽織って、祭壇を中心に魔法陣を描いていく。 石の地面をがりがり掘るでもなく、キースさんが指先で示すとそこに魔法陣の円ができて模様のような文字が浮かぶ。 魔法使いがいらっしゃる。 この国の文字が描かれた魔法陣はなにを意味するのか私にはわからない。 おぉーっと魔法使いらしいキースさんの姿に感動して見とれていると魔法陣は完成したらしい。 「エレナ、祭壇の上にお願いします」 「はーい」 机の高さくらいある祭壇によじよじとよじ登ろうとしたら、キースさんに抱っこされて乗せられた。 キースさんも祭壇の上に乗って、こつっと祭壇を叩いて魔法陣が起動。 おぉーっと光った魔法陣に感動。 ただ、これ、どこにも移動しない。 異世界にいくこともない。 「じゃ、儀式を始めますね。…とはいっても個人で執り行っているので…」 「結婚なのに指輪の交換とかないんですかっ?」 そう。これ、こんなので結婚式だったりする。 完全におめでたい感じのものじゃなくて儀式だけど。 「物品の交換ではなくて、魔法で相手に文字を刻みます。相手の好きなところに好きな文字や記号や模様を刻んで儀式は終了です」 「それ、私、できなくないですか?」 魔法使えない。 なんか最初からアウトになったような。 「なので俺が自分で自分にエレナが刻みたいものを刻みます。先に俺がやりますね?」 うんうんと頷くと、なぜか服の前ボタンをはずされていって、こんなとこでー!?となっていると、キースさんは私の素肌の心臓の上に手を当てた。 「エレナの心をもらいます。その体にある心臓ではなくて、エレナという魂の心。少し深くまで魔法を透過させるので痛みがあるかもしれませんが。……俺と結婚するとしたのはエレナですから。その体がたとえ消えても繋がっていられるように」 「なんか呪いみたいです」 「魔術とはそういうものです。見えない、ここにはないものを描き出すのですから。じゃ、いきます」 言われて、びくっとして体を強ばらせる。 キースさんの手は私の心臓の上。 なにか私に変化があるのかと思ってドキドキしながらその手を見ていた。 ぐっとその手が私の体の奥に入ってくるかのような感覚。 少しの息苦しさを感じたと思ったら、キースさんの手は離れて私のそこにはなにか模様のようなものが赤く描かれていた。 「これ、なんの模様ですか?」 「術式に使う縁や絆、契を意味する模様です。エレナが死んだら俺も死ぬ。自分が言ったことは覚えています」 あー。うん。そうだった。 重いこと思い出させてくださる。 まぁ、それを受け入れて、キースさんの命を背負ってやろうとして、私はここにいる。 結婚をするとした。 重りをつけられてるのはよくわかってる。 でも私が沈むなら。 私はキースさんを切り離すつもりだ。 絶対にキースさんを死なせはしない。 「でもでも、ほら、キースさんなら降魔術とかいうやつで甦らせることできますよね?器も簡単につくれちゃいますよね?王女様を甦らせることだって…」 「クリスティアの入れ物にするためにその体を創っていたわけではありませんよっ。ベルソレイユの組織体の研究のために、ベルソレイユが創り出しているものと同じものを創れないかと創っていたのがそれなだけですっ。まさかそこに中身を入れるとは自分でも考えてもいなかったことなので、耐久性を考えたものでもなく、それが動くことによってのエネルギーの供給など未知のものが多く、あとからこういう理論かとわかっているくらいです。はっきりいって、エレナ、君が動いていることが俺には奇跡なんです」 奇跡なんだ? 私は自分の体を眺めて、手をにぎにぎ動かしてみる。 普通に思ってるように動く。 ニセモノなのはよくわかってるけど、私の体と思える。 「あと降魔術はそんな簡単にできるものでもない、禁忌の魔術です。誰でも簡単にできたなら、今頃犠牲者なんて1人もいません」 「なんで私、ここにいるんです?」 なんかものすごーく難しいようなことを言われて素直に聞いていた。 「死者が願うものと同じものを同時に俺が願って降ろせたんだと思います」 なんだっけ?私が願ったこと。 ものすごーく平凡なことだったように思う。 それくらいのことか、みたいな。 「「結婚して子供を産む」」 言ってみたら、キースさんも同じことを言ってくれて、声が被った。 当たってたらしい。 「結婚するので子供を産んでください」 改めて言われて、どこかうきゃーっとなる。 というか。 それ、絶対、キースさん、ヤケになってるだけだと思うんだけど。 利用してやる。 有効に活用させていただく。 「じゃ、もう1回死んだらもう1回甦らせてもらう、ということで」 「甦りではありませんっ!エレナの元の肉体はないでしょうっ!?降魔術ですっ!」 そうだった。 これ、私の体だけど、本物の私の体じゃない。 「甦りは蘇生術です。それが使えたならと誰もが夢を見て研究されていますが、誰も使えたことはありません。降魔術でさえ、ほとんどは失敗するものです」 魔法、便利なはずなのに。 ファンタジー世界ならもうちょっとご都合主義でいいじゃないか。
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