呼び声

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「これは…、また、王女にそっくりだな…」 その人は私を見てそんな言葉をこぼした。 王女様? 「召喚はできた、が、その話はまだできていない。ベルソレイユに会いにきたんだ」 「あぁ。……引き受けてくれなくても構いませんよ」 その人は私を見てそんな言葉をかけると、もとの場所へと戻っていく。 なにをするのかと見ていたら、壁と思われたところがモニターだったようで、そこに綺麗な女の人の姿が映った。 二十歳くらいだろうか? 水の中にいるような体を丸めて浮いた姿で目を閉じた横顔。 全裸。 細身だけど胸もあってウエストあってという理想の体をしてくださっている。 というか。 私はちらっとキースさんを見る。 普通にそのモニターを見ていた。 女の子の裸を堂々と見ていらっしゃる。 「近くまでいってみましょうか。こちらです」 私の視線に気がつくとそんな言葉をかけてくれて、私はキースさんに案内されて部屋を出る。 近代的なものと石造りの壁や廊下。 不思議な世界だ。 部屋を出ると廊下。 少し歩くとまた転送魔法陣。 キースさんの手にふれると、ぱっと移動する。 これはたぶんきっとキースさんが呪文を唱えて私を連れていってくれているのだろう。 移動した場所から少し歩くと大きな水槽が見えた。 ガラス貼りの水槽。 その青というか緑というか不思議な色を見せる液体の中には、さっきのモニターの女の人がいた。 呼吸があるのか、時々ぷくりと泡が唇の端からこぼれる。 水の中にいる。 「彼女がベルソレイユです。外観は人間のようですが人間ではないもの。人間ではありませんが物質ではなく生体です。呼吸もします」 キースさんは水槽の中のその女の人を見て言ってくれる。 人間ではないと言われても、なんだか信じられない。 見た目は完全に女性。 長い髪がゆらゆらと水の中で漂っている。 肌の色は水の色と混じっていて何色になるのかもわからないけど。 この異世界の技術がものすんごい進歩した世界なのはよくわかる。 「あれ、水の中、苦しくないんでしょうか?」 「ベルソレイユのまわりの液体は水ではありません。培養液…といえるのか。あの形を維持するためのものです。素体は魔法でつくりましたが、そのまわりはベルソレイユがつくりあげたもの。ベルソレイユは人の姿をとりたかったのか、そばにいたのが私たち人間だったのであの形になったのかは定かではありません」 人間の形だけど人間じゃないらしい。 ものすごーくめずらしい生き物を見ているように見てしまう。 あの人にふれるだけなら簡単なことのように思う。 それで目が覚めるなら起こしてあげればいい。 目が覚めたら太陽が戻るっていうほうがおとぎ話のようだ。 「ベルソレイユを目覚めさせる研究のために犠牲になった者は多くいます。ふれて揺らせば起きるように思われ、簡単なことのように見えるのですが」 「違うんですかっ!?」 「ふれると蒸発するかのようにみんな消えてしまうんです」 「き、きえ…る?」 「はい。遺体というものが残ることもありません。どこかに転移したかのように塵も残さず消えます。太陽の表面温度は6000度。中心部は1500万度。あのベルソレイユもそういうもののようです」 あの女性がっ!? 私は綺麗な顔をしてる女性をじーっとじーっと眺める。 モニターのほうが近くて見やすかった。 水槽が大きくて近くの方が見えにくい。 ベルソレイユが水槽に当たらないようにのこの大きなプールなのかもしれない。 「消えた…なら、やっぱり転移ということは…」 魔法がある世界だから、そうあって欲しいようにも思って言ってみる。 「ベルソレイユのまわりの液体にその消えた犠牲者の因子が確認されています。蒸発して消えた、は、正しいことかと思われます」 ものすごーく冷静にキースさんは言ってくれるけど。 うえーと私はなんてものを飼っているんだと女性を見てしまう。 でも一瞬で溶けて消えてしまうなら痛みもなく死ねるだろう。 一応、なんまいだーと手を合わせておく。 というか。 私にこれにふれろとは、つまり。 死ね。 そういうことだよね?とベルソレイユを見る。 ここにきて、やっとやっと、まわりの態度の理由がよく理解できたことになるかもしれない。 実験。 賭け事。 どうせ死ぬひと。 それでもできたなら救世主。 ベルソレイユ起きてーとこのガラスを叩きまくりたい。
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