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夜はヒナタがいるからうるさくて集中できないとして、リアムは地下室にこもることもなく。
ヒナタはどこか得意気な顔を見せて幼稚園で習ったことをリアムに話して、リアムは幼稚園がどういうところかよく知らないから、本当にめずらしそうにその話を聞く。
あっちの世界には教育機関なんていうものはない。
はっきりいって潰れた世界、潰れた国。
生き残った人たちが城という場所で肩を寄せあって暮らす。
ヒナタのことを考えると、そんな終末の世界で暮らすのはどうかとも思う。
防御壁の中でしか暮らせない。
魔法がないとお城の中を移動するのも不便。
お店はないし、娯楽も少ないし、人も少ないし、食料もない。
こっちには普通にあるものが、なんにもない。
異世界。
壊れかけて、やっと光が見えたばかりの異世界。
決して安全でもないし、楽しいところじゃないのはよくわかってる。
悩んで悩んで。
言ってみるだけ言ってみようと、リアムと2人きりになった寝室で言ってみた。
「リアムの世界で暮らせない…かな?」
遠慮がちに。
試すように。
「この世界に比べたら、あんなところ暮らす場所じゃないから」
だよねー。
わかってはいたけど即答すぎ。
リアムの故郷なのに。
「覗いてみた?なにか見えた?」
言えないなーと思って話題をそっちにしてみた。
「ベルソレイユの犠牲者を還す話で城内は忙しくやってるのに、俺がぼーっとしてた」
「そういえば、なんかたくさん人がぽこぽこ地面からはえてたよね」
あのおぞましくも思う光景は一生忘れられない。
全裸の男女が地面からうまれる。
まるで芽が出て花が咲くように。
「人間ははえない。……俺は頼りにならないし、ジェイが下手なことやろうとするから兄が召喚士として呼ばれて城に戻ってた」
「そういえばお兄さんいたんだよね。どんな人なの?」
「極度の人見知り。この世界で言えば自閉症とされそうな」
思いがけず普通のお兄さんじゃなかった。
もっとずる賢い人なのかと思ってた。
「家でも引きこもりだったのに城で居住することを余儀なくされて、城の隅に隠れるようにして暮らしていたけど、限界だったらしくて小さな町に逃げた」
「逃げたのベルソレイユの研究からじゃなかったんだ…」
「ベルソレイユの研究からも逃げてるよ。召喚してまったく知らない異世界の人間に世界を救ってくれと話すことができない、って。逃げても小さな町でも、そこにいるだけで誰かは気にかけてくれて話しかけてくれる。だから、かまうなと言ってくれる人を求めて母も呼んだ」
「……リアム、お兄さんに無理させないように、今のリアムが戻ってお手伝いしよう?」
たぶんきっと吐き気がするほどの精神ストレスを感じていらっしゃるかと思う。
人と接するのが苦手なのに、たくさんの人がいるところに戻らされるなんて。
「王がそのへんははかってくれるだろ。俺は約4年役立たずのままだから。王に信頼さえされれば宮廷魔術師にも戻れるし国に居場所もできるし。兄が国に戻るためのチャンスだ」
「私にはお尻蹴ってやれと言ってるように聞こえます」
「やれ」
鬼だ。
鬼がおる。
お兄さん、きっとそんな地位はどうでもよくて、1人でのんびり生きられる場所が欲しいはずなのに。
「俺が戻るのはぼーっとしてるあっちの俺が旅に出たあとかな。覗いていただけなのに兄に見つかって言われた。尚早だ、って」
「しょーそー?」
「まだその時ではない。兄は予知の力を持っている。俺は知識、クリスティアは力、兄は稀な能力。兄ならきっと蘇生もできた。祖父や父も生き返らせることができた。兄はなにもしなかった。現在から見ればそれでよかったようにも思う。けど、すべてをなかったことにはできない。だから、余計に、今は兄に任せておくべきなのかもしれない。俺の心情含めて。兄も自分がやるとしてる」
リアムはどこか少し苛立っているかのように、その手の甲で自分の足を軽く叩く。
お兄さんが決めたことらしい。
というか。
なにかうらやましい。
お兄さんがいること。
リアムのまわりには信頼できる人がたくさんいそう。
「リアムがあっちの世界にいくとき、私とヒナタも連れていってくれる?」
リアムは戻るつもりがあるんだと思って便乗させてもらおうかと言ってみた。
「太陽消滅前ならまだしも、今のあの世界は魔法も持たない人間がいくところじゃない。魔法がないと満足に食べられないのはエレナも知ってるはずだけど?」
無理だなーと思わされる。
リアム助けてとばかりの荷物になるだけ。
食材があれば料理作るけど、まず食材がない世界。
エネルギーは電気じゃなくて魔力。
「……ヒナタに魔法教えてみようか」
リアムはなにかを考えたように言ってくれるけど。
ヒナタが魔法を覚えたら、なぜか即死するイメージしかない。
ちゅどーんって感じ。
魔法ってなんか繊細なイメージがあるから、ヒナタがやったら自爆しそう。
というか。
「ヒナタ、魔法使えるの?」
「エレナも訓練すれば使えるとは思うけど、ヒナタのほうが素質ある」
「私も使えるっ?やりたいっ」
憧れの魔法使いっ。
魔法少女というにはおばさんだけど。
「エレナはできて…、この世界でいうなら電源ボタン押すだけくらい」
それ、まったく意味ないのでは?
魔法と言えないのでは?
「ヒナタはなにかできるの?」
「まだ子供だし伸ばすことができるから成長率がよければ召喚士にもなれるかもしれない」
「……ねぇ?すごーく差がある」
「子供は直感的な遊びで慣れていける」
「順応性なら私あるよっ!?」
「直感と順応は違う…はず。まわりにあわせるじゃなくて、自分の思うままにってところ?あと、エレナの頭が柔らかいのはよくわかってる」
柔らかくてもだめなのか。
なぞなぞは得意だ。
まともに考えなくていいし。
「……リアムは頭かちかちだよね」
できないとされた悔しさから言ってあげると、さすがのリアムもむっとした。
というか。
もしかして、ヒナタが魔法使えるようになったら連れていってくれる?
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