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私の目的のため、ヒナタに魔法を覚えてもらおうと私も協力。
自爆したらどうしようとも思うけど、私もリアムならなんとかしてくれると信じてしまっている。
今までいろいろあったけど、リアムがいたから簡単に乗り越えてしまったものは多い。
無条件に信頼してしまえる。
リアムは地下室でヒナタになにか洗礼のようなことをする。
それを私とお母さんは見守っていた。
魔法石の塊がきらきらして見える薄暗くされた場所。
なにが起こるのかわくわくでもある。
「これで失敗して魔法が暴発しても大丈夫なはずだ。ヒナタ、じゃ、俺の真似してみようか?」
リアムは魔法石の欠片を台座において、離れたところから指先を動かして転がす。
ヒナタも魔法を使ってみたいらしく、リアムの言う通りに転がそうと真似をするけど、もちろん転がらない。
洗礼のようなあれで魔法が使えるようになったーというわけではないらしい。
地味なお遊びに見える。
私とお母さんもリアムの真似をしてやってみようとするけど、こんなの転がるはずがない。
んーっと集中しても、動けーっと念力送ってみても無理。
その指先に種や仕掛けがあるような気がして、リアムの指をどれだけ見ても、そんなトリックはあるはずもない。
ヒナタも真面目な顔をしてリアムの真似をしてるけどできない。
やっぱり無理なんだと思って半分諦めていたら、カタリと石が動いた。
「そうそう。自分の指から糸で繋がっていて動かせるイメージで」
リアムはヒナタに助言。
私もそれを聞いてもう1回と挑戦してみるけど、できるはずもなく。
なのに、なぜかヒナタが指を動かすと石がカタっと小さく動く。
「どうなってるのっ?ヒナタっ」
「ママ、しーっ!」
5歳の息子にうるさいと言われる母親。
しくしくしながら、集中しているヒナタを邪魔しないように黙る。
リアムが指導して、ひたすら無言で集中するばかり。
ヒナタ、こんなに集中力あったのかと母親としてはそこに感心していたのだけど。
なにをしたのか、ヒナタが動かそうとしていた石はいきなり飛び上がって天井にぶつかった。
落ちてくるその石はリアムがその手でパシッと受け止めた。
「よし。じゃあ次、割ってみようか」
「思い通りになってないよ、パパ」
「最初から思い通りになんでもできたら天才だ。どんなことができて、どうすれば上手くできるのか。まずはできることを知ってみよう?」
「はーい」
ヒナタは完全に真面目に習う姿を見せる。
ただ、これ、もしかしたら、外でやろうとして、まわりから魔法使いってバレるのでは?なんて不安になってきた。
できてしまうから悪い。
できなかったら不安にもならないのに。
という私の不安は、外でやってみせようとしたヒナタがまったくできなかったことでなくなる。
理由はリアムが当然のことのように見せてくれた。
「この石が魔力だから。これがなければこの世界じゃ魔法は使えない。自分の体にこれの力を取り込んで放出する感じになるのかも」
リアムは魔法石の欠片を指先でこねるようにさわりながら言ってくれる。
手先が不器用なのにマジシャン。
などとリアムのことを思う。
「そういえばそれが王ちゃんのお尻から出てきてリアムの言葉わかるようになったんだっけ」
「穴あいてないのにな」
リアムは王ちゃんを机の上にあげて、そのふさふさの長い尻尾をめくってお尻の穴を見せる。
もともとただのぬいぐるみ。
お尻はばってんに縫われてるだけ。
王ちゃんのすべて、なにがどうなってそうなってるのかは、私の小さな脳みそでは理解できない。
そういうものなのだ、としてしまえば悩まなくてすむ。
そういうものなのだとして、魔法石が動くものと考えて動かそうとしてみた。
じーっとじーっと睨むように見て集中。
あんまり動いてくれないから指で弾く仕草をしてみたら、なぜかどうしてかピシッと飛んでいって窓にガツッ。
かなり勢いよく当たって、割れるーっ!と思ったけど窓は割れなかった。
頑丈。
あれはきっとガラスじゃない。
落ちた石はリアムが魔法で拾って手元にいつの間にか戻してる。
「目の前にあるものを動かすのはまだ簡単だろ?」
「まぐれなんだけど。完全に。ねぇねぇ、リアム。魔法使いならやっぱり四大元素がなんちゃらかんちゃらーみたいな、ファイアーボールみたいなのできないの?」
そんなのリアムが使ってるの見たこともないけど。
魔法使いならそれでしょとどうしても思う。
「火は酸素がないと広がらない、っていう話になってくる。水ならH2O。元素ってそういうやつ。」
「化学嫌いです」
「風ならイメージだから」
リアムは簡単とでも言ってくれるように、手にしていた石をさくっと切った。
「風といってるけど、これ、なんだろな。念力カッター?まぁ、そよぐ風みたいなのもできないことはないけど、それっぽく見せてるだけで揺らしてるだけ」
カーテンがふわりと揺れたのはリアムがやったらしい。
「風魔法といったら竜巻とかー」
言ってみたら、こんなの?とリアムは軽く小さな風の渦を作って王ちゃんを持ち上げる。
おぉーと私は拍手。
「大気の流れや気圧の流れっていうものが風をうんでいるから、これ違うんだよな、本当は」
「風でいいはずっ。自然現象を解析したら夢がなくなります!」
「魔法は自然現象を操ってるわけじゃなくて…」
「夢がいいです!」
「エレナは花畑世界の魔法がいいのかもな。研究者の俺の魔法とは絶対違うもの持ってる」
「だってファンタジーっていったら、そうじゃないっ?精霊さんがーみたいな」
「残念だけど俺の世界に精霊なんてないから。操る力も科学だから」
「非科学的なことして科学とかわかんないよっ」
「理論に基づいた魔法は非科学的とは言わない。理論を形成して安定した使い方ができる。理論がわからず、理論がないから花畑になるんだろ?ただの花畑、思想論じゃなく理論を確立させるのが研究者」
あ、あうぅ…。
「わかりません、キース先生」
理論理論って、そもそも理論とはなんですか?という。
非科学的ってなんだっけ?となる。
わからないものはわからないーっ!
「米の育て方や調理方法の正しいもの、簡単な調理方法、美味しい食べ方を探すのが研究者」
リアムはそんな言い方をしてくれて、米?となる。
米の話はしてない。
お米の研究するように魔法を研究?
だからそもそも魔法というものが私には確かにあるとはわかっていても、なんなのかわかってないともいう。
私には超能力。
……超能力でいいのか?
どこで得た認識かもわからないものが、魔法は自然を操るものにしてる。
確かに…リアムが使う魔法は、自然の力じゃない。
うーんと悩む。
「俺の世界にも大昔は宗教もあったし、神だの精霊だのもあったよ。それにすがるだけじゃ何も変わらなかった。なにもできなかった。今もどこかの誰かは信じているんだろうけど、俺はそんなもの信じていない」
まぁ宗教って偶像崇拝だよねとは思う。
誰かのつくった物語の中の登場人物をそのまま神様にしてる、というか。
……夢がなくなるって、だけど、そういうことか。
誰かの物語を否定する。
実話かもしれないけど、そんな昔の人なんて知らないから。
夢なんて最初からないものなのかもしれない。
「俺の女神はエレナだけど」
リアムはそんなことを言ってくれて、どきっとさせられる。
子持ちだしもう若くはないとも思うのだけど。
いつまでもドキドキさせてくれる素敵な旦那様だ。
「リアムは私の神様だしね」
私もキースさんに言いまくっていたような、リアムには言ったこともないようなその言葉をあげる。
私を幸せに導いてくれる神様。
私の望みはあなたが全部叶えてくれる。
信じてる。
誰よりもなによりも。
誰かが聞けば、私の人生は非現実的。
だけど、私にはあなたがいるから現実だ。
本当の私は孤独な社畜だった、なんていう夢にはしたくない。
完璧なあなたでもなく、私の嫌なところもあったりするあなたは、そこに実在する私の神様。
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