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いきなりあんな悪ガキを連れていっても、お兄さんが困るはず。
リアムは地下室でローブを羽織ると、台座を前に座って目を閉じて、なにか集中。
声をかけたいけどやめたほうがいいような気がして、リアムがなにか話してくれるのを待った。
ヒナタが本当にお兄さんのところにいても、ただただ、ヒナタが迷惑をかけそうで心配するばかり。
私にとっては旦那様のお兄さんで、旦那様のお母さん。
お世話になってもいいけど、躾はまったくできてないとも言えるから、もうちょっといい子になってから、大人になってから会うほうがいいと思う。
なにもできないままリアムを待っていたら、リアムはその目を開けて私を目の前に見て溜息をついてくれる。
「ど、どうだった?」
「やっぱり兄が召喚していた。あの様子を母が兄と見ていて、……母が呼べと兄に言って呼んだ、らしい」
リアムは私から目を逸らす。
「会話したの?」
「……まぁ、殺しはしないだろうから預けていても大丈夫、だと思いたい」
「でもヒナタ、絶対なんかするよっ?おとなしく知らない人についていきそうにないよっ?」
あれは誘拐されたら泣き喚いて殺されるタイプだ。
おとなしくしろと言われても暴れる。
「……俺の母が甘くない。小さい頃、木に吊るされてサンドバッグにされた。ヒナタみたいに生意気だったからかもしれないけど。孫には少しは甘くなると思いたい…」
リアムはものすごく嫌な思い出のように話してくれる。
リアムのお母さんが躾けるつもりで呼んだ、と思われる。
泣き喚いて助けを求めるヒナタの姿が浮かぶ。
……泣き落としはきっと通じないよ、ヒナタ。
がんばれ!
見捨てる。
母はあなたを見捨てます。
それがお姑さんとうまくやっていくために必要なら、容赦なく見捨てます!
だってヒナタ、魔法を覚えて最強になった気になっていやがるし。
リアムのお仕置きくらいしか効かないし。
私の言うこときいてくれないし!
「お姑さんに感謝します」
私はなむなむとヒナタの無事を祈ってあげる。
「いや、殺されるかもしれないって思おうっ!?」
リアムがかばおうとしている。
殺しはしないと思う。
もし死んでもきっとお兄さんが生き返らせてくれると信じておこう。
いい矯正施設だ。
「シズクさんっ、止めにいったほうがいいですよねっ?」
リアムはお母さんに同意を求める。
「でもヒナタ、私とエレナではもうどうしようもできないから。魔法で制裁してもらったほうがいいと思うの」
お母さんもそれでいいとしてくれる。
「なんか厳しくないですかっ?」
「リアムくんが甘いのよ。リアムくんしかヒナタにかなわないのに、厳しく叱ってくれないから」
「怒鳴るのも体罰も嫌なんです」
「それをしないとわからない子供もいるものよ。大きくなっても同じことをして誰かを傷つけても反省もしなかったり」
「……すみません」
リアムはなぜかお母さんに土下座のように頭を下げる。
「おとなしい子なら内側に爆発物抱えて危ないこともあったりするけどね」
「……ごめんなさい」
リアムはなぜかお母さんにひたすら謝る。
きっとなにか危ないことをしたに違いない。
「天狗の鼻は折らなきゃ。折ってくれる身内がいるのはありがたいことよ。折られてもまた鼻を高く伸ばしたら、今度はリアムくんが折ってね」
「俺の鼻が今シズクさんに折られているように思います。本当にすみません」
「あら。私、なにかリアムくんに突き刺さるようなこと言ったかしら?」
「いえ、ヒナタの教育についてもあぐらをかいていて、俺の母が横から出てきたように思うので」
「リアムくんのお母様ならきっとすぐにヒナタをいい子にしてくれるわ。直接お話ができないのが残念ね」
「シズクさんは俺の故郷になる世界にいってみたいと思いますか?完全に終末、人類滅亡まで秒読み段階だった世界ですが」
「それでもエレナがいって少しは生きる道が拓けたのでしょう?…そうだ。会社で野菜や植物の種を大量に仕入れてリアムくんの故郷に送るのはどうかしら?こちらの世界にいるからこそ、なにか手伝えることもあるかもしれないじゃない?」
「そうですね。金は必要ないくらい集められていますから。盗むように召喚して種を手に入れるよりはいいと思います」
ヒナタの話はどこいった?という話になってる。
もう任せたでいいのだろうか?
というか、私も見たこともないリアムのお母さんとお兄さんにご挨拶してみたいのだけど。
会わせてくれるなら会いたい。
「早くて1週間、遅くても1ヶ月後には、仕事の関連を片付けて手土産を持って俺の世界にいきませんか?」
リアムはそんな話をお母さんにした。
ちょっと待てーっ?
それ、私に言えーっ。
いろんなことのパートナー、お母さんになってるのはわかるけどもっ。
嫁は私だーっ!
私はリアムの背中にのしかかる。
「もちろんエレナも」
リアムは気がついたかのように言ってくれる。
つけくわえで言うなっ。
「そうね。リアムくんのご家族とご挨拶もしていないし、ちゃんとご挨拶をしないと。私とエレナはずっとリアムくんのお世話になってきたのだから」
お母さんはそんな言葉で異世界へいくことに了承をした。
という経緯があり、私はまた、今度はちゃんと生身の体でリアムが生まれて育った異世界へいくことになった。
理由はヒナタが悪さばかりしたから、かもしれない。
私としてはうれしくはあるけど、ずっと住むにはつらいところだし、と、少し悩むものがある。
ずっとはいられないとして、お世話になっていたメイドさんたちへのお土産を考えたりして、私は少し旅行気分だった。
お母さんとリアムは異世界に移住するかのように、売り物だった知的財産をリアムが信頼する人に譲渡したり、集めすぎでは?というくらいの量の種や食料を集めた。
更には、じゃあいくかというときに、リアムは住んでいた家を一瞬でぱっと消してしまった。
家もなくなったし、本当に移住するのだろうか?
住めば都……になるのかも謎な世界なのに。
リアムに負担いっぱいかけそうなのに。
というか、儀式するところもないのに、どうやっていくんだろ?
と思っていたら、リアムが先にいくから、少し待っていてと私とお母さんが残されて。
リアムが異世界にお兄さんによって召喚されたあと、私とお母さんはリアムによってその世界に召喚された。
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