74人が本棚に入れています
本棚に追加
よく見るとリアムにも面影が少しあるリアムのお母さんにご挨拶をして、リアムのお母さんは突然できていたリアムの嫁という私をいびるようなこともなく、にっこりと受け入れてくれた。
ヒナタのことは教育中らしく、ヒナタもなにがあったのか、リアムのお母さんに声をかけられると、背筋を伸ばしてぴしっとした姿で敬語で話す。
しつけられている。
見たからにしつけられている。
どうしたらこうなるのか伝授してもらいたいくらいしつけられている。
王様への謁見を取り次いでくれるらしく、それまではここでゆっくりとされた部屋。
リアムのお母さんがいなくなると、ヒナタは息を詰めていたかのように、ぜぇぜぇと呼吸をして、リアムがわかると言いたげにその背中を優しく撫でる。
「そんなに厳しいの?あの美人のお母さん」
私はリアムとヒナタに聞いてみる。
「……ママ…、お母さんと遊んでるほうがいい」
ヒナタはふるふる震えてリアムにしがみついて甘える。
「それ、私で遊んでるほうがいいって聞こえるんだけど」
気のせいだよね?と声をかけるとヒナタは黙る。
このクソガキと自分の息子を蹴りたくなる。
「笑顔で叩くんだよ。こわいんだよ、あれが。表情で怒ってるともわからないし、顔色見て態度かえることができない。自分の行いを常に振り返りながら、なにかしてないかと怯える。どこか強迫観念。怒られたことに気をつけて普通にしていれば大丈夫だ」
リアムはヒナタの背中を軽くぽんぽん叩いて慰める。
いや、それ、怒られて当然のこと、絶対してるから怒られるんだし。
今だって私が怒りたい。
放置してごめんねと言える息子じゃなかったと改めて思えた。
「ほら、リアムくんはヒナタに甘いんだから」
「いえ、子供心にあれは恐ろしい生き物だったので。俺がまわりに簡単に気を許せないもとをつくった人だと思います。やりすぎはいろんな弊害を子供に与えるものです」
お母さんに言われるとリアムはそんな答えをおく。
「リアムも相当やんちゃだったんだね」
「……ソンナコトナイヨ?」
棒読みカタコト、つくった無垢な顔で答えるなし。
ヒナタがリアムにそっくりなのは外見だけでもなかった、というのがよくわかった。
魔法を使ってくるから厄介な子育てだ。
私も魔法が使えたなら対抗してヒナタに制裁与えられるのに。
それをわかってくれてのお姑さんの教育だと思うと本当にありがたい。
謁見の準備が整ったとリアムのお母さんがきてくれたときには、少し力を抜いてリラックスできていたヒナタはビシッと姿勢を正す。
私はヒナタに手をひかれてお城の中を案内されるように歩く。
なぜか私よりもうここに馴染んでいて道に迷うこともない。
魔法陣もヒナタが起動させて連れていってくれる。
ヒナタでもリアムみたいに頭よくなるのかなと、少しヒナタの将来に期待をしてしまう。
なんていうのは甘かった。
ヒナタの目的は早くここから帰ることだったらしく。
ハゲていたはずなのに髪ふさふさの元気になったイケメン王様を前に、リアムが私たちのことを王様に紹介して、ここでの滞在を願うとやだっ!と大きな声をあげた。
ただ、それ以上は口を塞がれたかのように、口をぱくぱくするばかり。
不思議に思ってヒナタを見ていたけど、ヒナタは悲しそうな顔で私になにかを訴えるかのように口をぱくぱく。
いや、黙れ?
声を奪われた、と思うけど。
邪魔だよ、ヒナタ。
ヒナタの唇に手を当てて、しーっとすると口を閉じた。
無事に王様に報告して、まだこの王様は王ちゃんじゃないから手紙を書いたことは話せないなぁと王様の前からさがる。
失礼しましたと王様の部屋を出たら、リアムのお母さんがヒナタになぜ言葉を奪ったのか教える。
ヒナタが反省した顔を見せて、わかったと頷くと魔法をといてくれた。
でもヒナタは無言で、リアムのお母さんにごめんなさいも言わずに私の後ろに隠れるかのように逃げる。
子育て難しい。
慰めてくれるのはリアムにして、私も教育ママをやらないと、お姑さんに任せきりは怒られそう。
「ヒナタ、ごめんなさいは?」
「……ごめんなさい」
不服そうに私の後ろに隠れたままヒナタは言う。
それも言えなかったことを考えると大きな進歩だ。
「すみません、お母様。ありがとうございます」
私からも謝っておいた。
「気にしないでください、エレナさん。ヒナタは孫ですから、リアムが躾けられないぶん、私がやらなければと思ったまでです。母として息子を甘やかし、可愛がりたいというものがエレナさんに見えなかったので私がヒナタを呼びました。ちゃんと子育てができない息子で申し訳ありません」
美人お姑さんに頭を下げられて私はリアムを見る。
これ、リアムに教育してるよ?と言いたい。
リアムがしていれば手は出さなかったって言われてるよ?と言いたい。
「……とりあえず。家を建てます。ヒナタもそっちに引き取るので、なにかあったらまた相談にきます」
リアムはわかっているのかいないのか。
そんな言葉をお姑さんにかける。
お姑さんはにっこり。
でもなにも言わないところが、これキレていそうと思える。
リアムの服の袖を引っ張って違うでしょとやってみた。
「……。ヒナタのことに関してはお手数をかけました。ありがとうございました。今後もよろしくお願いします」
そんなビジネスメールみたいな言葉をリアムは口にする。
ちょっとかたすぎるけど、まぁよしとするか。
なんて思ってると、リアムのお母さんがクスッと声をたてて笑う。
「あなたにしてはいいお嫁さんを見つけられたようですね。よかったですね」
そんなことを言ってもらえて、どこか私が褒められたようでうれしくなる。
リアムが私が言いたいことをわかってくれたからかもしれない。
賢い旦那様で、ほぼほぼ私がなにかを言うことはなかったのだけど。
旦那様の教育がんばりまーす!
だから、お姑さん、ヒナタのこと、これからもよろしくお願いします!
リアムに連れられて私とお母さんとヒナタはお城の外。
このへんでいいかとリアムが立ち止まって、なにかと思うとぽんっと、ずっと住んでいたあの家が大きくなってバージョンアップして出てきた。
私とお母さんは感動して新しく増えた間取りを確認しに中に入る。
電化製品もそのままで、まるごと持ってきている。
魔法すごい、チート。
家の中を歩き回ると地下室が増えていた。
扉を開けると段ボールの山。
においが野菜。
食料をたくさん積み込んで持ってきたらしい。
お母さんはそれを見て、じゃあ、あれは…みたいに探すように歩いて、見つけたのは種の入った段ボールの山。
どこからこんなにかき集めた?という量になっている。
「うん!じゃあエレナ、今日からは畑仕事がんばりましょうか」
「……お母さん、パワフルだね」
知らない世界にきてやる気だ。
「あちらのお母さんに負けていられないじゃない。ヒナタの教育はできないけど、ヒナタの食育はがんばらなきゃ。ヒナタの取り合いになりたくないからもう1人、孫がんばれないの?エレナ」
それを言われて思い出したのは娘。
王子様が育ててるはず。
胎児から育ててくれてるから私の子供とは本当に言えないかもしれない。
「……お願いしたら来年にはできるよ?」
たぶん、きっと。
会えないかな、娘。
最初のコメントを投稿しよう!