呼び声

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「だから誰も無理にはあなたに協力を願うことはできないのです。召喚という形で勝手にこちらが呼びつけて、あなたになんの関係もないこの世界を救えなんて願えるはずもないのです」 キースさんはさらっと断ってもいいとしてくれる。 してくれるけど、うーんとどうしても悩んでしまう。 「召喚する条件ってあったりします?」 私がここに呼び出されたこと。 どうして私だったのか。 あの私を呼んでいる声はもしかしたら。 私はベルソレイユを見る。 ベルソレイユに呼ばれていたんじゃないかな、なんて、ちょっと運命的なものを考えてしまう。 あの私を呼ぶ声は男か女かもわからなかった。 そりゃキースさんみたいなイケメンが呼んでいた…なんて思えたほうが私にとってはドキドキのうれしい恋愛物語になるんだけど。 あなたが呼んでいた?ベルソレイユ。 「多くの犠牲者を出しながらも私たちもどうすればベルソレイユが目覚めるのか研究をしていました。女性の姿なのだから男性をあてがえば、だとか、太陽の知識が豊富な者だとか、この世の救世を深く求める者だとか。考えられるあらゆることを試してみても、みな、すべて消えるのです。あまりの犠牲者の数にこのベルソレイユの研究も悪魔の所業だと言われたりもしました。 ある日、この国の王女がベルソレイユに近づくことを望み、国民の反対を押し切ってベルソレイユに近づくと、一瞬で燃え尽きることなく、ベルソレイユは王女を見たのです。見た、だけで、王女の姿が消えるとベルソレイユはまた目を閉じ眠りましたが、それが大きな進歩となりました。王女のなにがベルソレイユに興味を持たせたのか。それを研究し、この世界にいないのなら召喚をすることとなり、何人か召喚され、今度はあなたが召喚されたのです。 条件の1つ。王女と瓜二つであること」 キースさんに言われて、私はさっきのキースさんの同僚となりそうな人を浮かべる。 うむ。 私、社畜だけど。 どこかの私に似た人は王女様だったらしい。 うらやましい。 「なぜか王女の姿に似ている者はベルソレイユが目をとめるのです。ただし、ベルソレイユがふれるとみな消える。王女になりかわれそうな者を何人召喚したことか。自国の王女に何回虐殺じみたことをしているのか。……この研究を続けていくことは、私はもうおりたいくらいです」 キースさんのその言葉にキースさんをみると、どこか憎しみを持った目でベルソレイユを見ていた。 その心情、なんとなくわからなくはない。 私が思うより多くの人が亡くなったのかもしれない。 だけど。 私が思うより、ベルソレイユが目覚めると救われる人はいるのかもしれない。 きっと亡くなった人よりも多くの人が救われる。 挑戦…くらいしてもいいんじゃないだろうか? ただの社畜で過労で溺死するよりはましな死に方かもしれない。 ただの研究対象、モルモットなだけなら嫌だけど。 私には彼氏も子供もいないし、溺れて助けてと思ったときのように生きたいとは別に思わない。 だって生きてもどうせ社畜だし。 どうせなら自分の命を大きな賭け事に使って終わるのも悪くはない。 ……私をずっと呼んでいたあの声。 それも気になる。 「やってみます、私」 私は答えてキースさんに向き直る。 キースさんは私を見て、私に願っていたはずなのに頭を横に振った。 なにっ!? やるって言ってんのに拒否られたっ!? 「早急には答えを求めてはいません。成功した前例がないことです。死ぬとわかっていることです」 ものすごーく弱気に言ってくれる。 成功させてやろうという気概がほしいくらいだ。 「やるって言ってるのに弱気にならないでくださいよっ」 「やめましょう?この研究に携わってきた多くの者たちも王ももう諦めようとしているところです。あなたには実感がないのでしょう?犠牲者の墓を見せましょうか?何百、何千と犠牲にしてきたのです」 悪魔の所業。 そう言われるのもわかるけど。 「変異するならまだいいけど、太陽がないままならいずれはみんな死んじゃいますからっ!微生物の活動があるならいいけど、微生物もいなくなりますっ!」 「星の命が失われたときにはそうなるでしょう。それがこの世界の運命なのです」 「運命はかえられるんですっ!ベルソレイユがいるんだから、かえることはできるはずですっ!」 ここまでは研究できたのだから。 あとは目覚めさせるだけなのだから。 もしもやめるなら、私がやってみてからでもいいはずだっ! ……身を削ってなにかをやろうとしてしまうのは私の悪いところかもしれない。
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