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キースさんをどれだけ説得してみても、もうやめましょうとなるばかりで説得しきれず。
少しは落ち着いて物事をよく考えてくださいと私は部屋を与えられて留まることになった。
今すぐにでもあの水槽の中に入ってしまいたい勢いだったのに、非常に残念なことである。
この世界にきてから、あの私を呼ぶ声は聞こえない。
もしかしたら私の思い違い、高校生の頃の厨二病のようなものを発動させてしまっているだけなのかもしれない。
それでも。
与えられた立派な部屋は明るい。
豪華な客室。
バルコニーへ出られるような扉はある。
扉の外はどこまでも真っ暗で、どこかに明かりが見えることもない闇。
物陰というものも、部屋の明かりが届かない場所には見えない。
バルコニーの向こうは真っ暗な闇。
私には挑戦権がある。
今のところ私にしかないものともなる。
やってみてもいいことのように思う。
死ぬけど。
どうせ死んだと思っていた命、どう使ってもいいようにも思う。
というか。
この外見はなんなんだろう?
私は窓に映る自分をじーっと見る。
瞳と髪の色が違う若い私。
この国の王女様のものなんじゃないだろうか?
顔は確かに私ではあるけど、なぜかそんなふうにも思う。
こんこんっと扉がノックされて、返事をしながら振り返る。
扉を開けて入ってきたのはキースさん。
「失礼いたします。エレナ様、考え直していただけましたか?」
私の顔を見るなり言ってくれる。
命をくれと言っていたのに。
とめる側にまわるなと言いたい。
「がんばりますっ!」
やめるとは言わずに言うと、キースさんは困った顔を見せて溜息なんかついてくれる。
困るくらいなら最初から召喚しなきゃいいのに。
召喚したほうが悪いということにしておく。
「あと、お召し物もどうぞ、遠慮はせずに好きなものを。あの衣装部屋にあるものは召喚された者たちへの貢ぎ物です。メイドたちもあなたがここにいらっしゃる間はあなたのメイドとなります。なにかさせたいことがあればメイドをお使いください」
メイドさんがいるって、なんか王女様のようだ。
とはいえ、私、別になにもしてないし、なにかしてほしいことなんてなにもない。
これが私の部屋なら部屋の掃除を頼んでいるかもしれない。
今のこの部屋は別に荒れてもいない。
「あと食事をご用意させていただきます。異世界のこんな世界で食事は不安もあるかと思われるので、私がエレナ様の世界の食事を召喚します」
「ごはんを召喚できるの!?」
「当然、あちらの世界では忽然ときえてしまうので盗まれたものになるでしょう」
さらっと窃盗を言ってくれて、なんとも言い難い。
「こっちのごはんでいいですよ?」
さすがに盗みはよくない。
「こちらの食事は魔法で創り出したものです。見た目や味や栄養素などもあり、一見まともに見えますが」
キースさんは机に向かっていって、なにをするのかと見ていると、ぽんっと机を叩いた。
なにか豪華なおいしそうなごはんがそれだけでそこに出てきた。
机のそばに寄って、それをよく見てみる。
本物にしか見えないけど、これも魔法らしい。
「所詮は魔法で創り出した創造物。いずれは人体に悪影響を及ぼす可能性があります。言うなら変異ですね。モンスターとなるかもしれませんよ?」
どこかなにか脅してくれる。
でもこれをキースさんは食べているらしいし。
少しだけつまんで食べてみた。
おいしい。
ふつーにおいしい。
なにが悪いのか逆にわからないくらい手軽でおいしい。
魔法が使えるってうらやましい。
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