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「魔法じゃない植物ってなくなっちゃったんですか?」
ぱりぱりとレタスのような葉っぱの野菜をかじりながら聞いてみると、キースさんはバルコニーへ出ていく。
なにをしているのか見ていると、闇の中へと腕をのばして。
ぽきっとなにか音がしたと思ったら、キースさんの手には真っ白のなにかが握られて戻ってきた。
そんな闇の中にそんな果実のようなものがあったらしい。
「見えるんですか?そこになにがあるのか」
「見えますよ。変異した瞳なので。光源となるものがなくても物体の形は。ただ形が見えるだけで闇の中では色は見えません。色の発色は光があって見れるものです」
キースさんはバルコニーから戻ってくると、私にその木の実を渡してくれる。
受け取ってみると真っ白なりんごだった。
立派な大きさのりんご。
つやつやしてるけど、こっちのほうが魔法で出したものより食べていいものなのか迷う。
「闇の中でも育つ植物は研究されています。ただし、光合成もなく種を他者に運ばせることもないので、そのような色のない味もないものができるようです。魔法があるから生きてはいるけれど、魔法がなくなれば死ぬ。ここはそういう世界です。魔法を使うこともできないあなたが生きる世界でもありません」
なにか帰れと言われているかと思われる。
別に太陽のない世界で生きたいわけでもない。
もらったりんごをきゅっきゅっとスカートで拭いて、試しにかじってみた。
しゃりっとした食感は確かにりんごだった。
ただ、香りがない。
水分はあるけど、甘味もない。
味のないガムを噛むより吐き気がする。
しゃりしゃりと噛んで。
我慢できずにキースさんに背中を向けて吐き出させてもらった。
まずい。
これは食べ物じゃない。
口直しにキースさんが魔法で出してくれたものをもぐもぐ。
どう考えてもこっち。
食べ物はこれ。
これは食べてはいけないものだ。
私はもらったりんごを机にとんっと置いた。
へにょっとなった。
あれ?と思ってつついてみると、ぐしゃりと崩れて水分と皮が残る。
……食べてはいけないものだ。
不気味すぎる。
「熱にも弱いのです。体温でもすぐに腐ります。闇の中で熱も光もないところで育てる植物としているので」
キースさんは椅子をひいてくれて、促されるまま座ると、私の手元にフォークを置いてくれる。
フォークを使って改めてそこにあるものを食べさせてもらう。
うまうま。
変異植物は食べてはいけないものだ。
魔法食べておけば魔法使えるようになるかも!?
……1番安全なのは、きっと、私の世界から盗んで召喚したものになるのはよくわかった。
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