条件

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なにもなかったことにして食事をとる。 我ながら馬鹿なことを言ってしまったと反省はする。 キースさんはやめさせたい。 種も渡したくない。 種をつけるなんてあるわけない。 ちらっとキースさんを見ると、まだ真っ赤になってかたまっている。 なにかウブい人にセクハラしてしまったようにも思う。 もう少し羞恥心を持たなければ。 16の頃に戻って私もウブにならなくては。 なんて思いつつ。 初めてのえっちって、私、どんなのだったかなーと思ってみる。 恋愛まったくしたことないわけじゃない。 最近は、というか、社畜になってから男関係なんて散々といったところだけど、大学の頃は恋愛してた。 就職で道をはずれてしまった。 いや、就職してからまったく男にふれたことがないとは言わない。 長期休暇あるし。 でも休暇が終わると遊ぶ余裕もなくなって、結婚なんてまったくできそうになかった。 ちらっとちらっとキースさんを見ながらごはんを食べていると、キースさんがやっと口を開く。 「え、エレナ様はもう少し物事を深く考えられたほうがいいと思います」 それを言われて、あははーと笑ってごまかしておく。 いや、でも私、キースさん好みだし。 胎内受精ではあるけど、その簡単なのもどうかと思って、思わず口走ってしまった。 魔法でつくられたものはアヤシイなんていうようなことをキースさんが言うから悪い。 産むことはないからなんでもいいとは思うけど。 思うけど、どうせなら普通に妊娠してみたいなんて思ったりもして。 キースさんが相手ならいいかなーと。 心の中、言い訳はたくさんある。 あるけどなにか告白混じっていそうだから言えない。 でも正直、私にはキースさんはイケメンだし好みだ。 欲を出せば普通のキースさんが見たい。 救世主様みたいな扱いじゃなくて。 エスコートしてくれるような手を差し出してくれるのは好きだけど。 「……あなたの命を無駄にすることはないんです。あなたの生きたい道もあるでしょう?」 キースさんは少し落ち着いてそんな言葉をくれた。 生きたい道。 そんなもの…見えなかった。 仕事いかなきゃ、だけ。 家に帰ったらごはん食べなきゃ、お風呂入らなきゃ、眠らなきゃ。 仕事が中心になっていた。 なんでそんなに働いていたのかわからないくらい、ひたすら仕事しなきゃ。 ……これは自殺かもしれない。 そんな道から逃げるために。 そんな道しかないところに帰りたいとは思わない。 帰ってもまたお風呂で溺れるくらい疲れ果てて過労で死ぬだけのようにも思う。 それに比べれば誰かのためになにかに挑戦できるのは無駄とは思わない。 義理もなにもない会社に命を削られるように働いて倒れるように眠る毎日に比べれば有意義だ。 逃げてる。 だけど、逃げてない。 生きることから私は逃げてるわけじゃない。 生きるために逃げて、自分の命を有意義なものとしたいだけ。 「私の生きる道はこれだと思ってしまっただけです。今までの研究成果をもって挑むんだから、私の挑戦は無駄なものにはならないでしょう?」 私はまっすぐにキースさんに言っていた。 私は死ぬかもしれない。 だけど、それも研究の1つとなれるかもしれない。 なにか対価が欲しいからするわけじゃない。 もしも対価としていただくなら…。 そこを考えてみて、やっぱりどうしてもそこに行き着く。 私の好みだったあなたが悪い。 「もしも私の命に代償をもらえるなら、その挑戦までの間、キースさんの恋人になりたいです!」 結局告白。 自分を馬鹿だとは思う。 だけど、対価がほしいからするわけじゃない。 尽くしてくれるってキースさんが最初に言った。 私の人生、誰かに尽くすことばかりで、尽くしてもらったこともない。 それをキースさんがくれるなら、私はもらってキースさんの願いをきく。 「私は……エレナ様がいなくなったら恋人を失うことになるのですが」 そういう言い方をしちゃうとそうなっちゃうよねという返しをいただいて迷う。 でもえっちして妊娠させてくれるなら恋人のほうがいいなと思ったりもして。 別にしなくてもいいけど。 せめて少しだけいちゃつかせてもらいたいようには思う。 手だけでいい。 私からきゅっと握ったり、さわりまくりたい。 その下心はだめかなぁ?と思って口に出せない。 出せないけどできるなら恋人がいい。 男を落とす才能なんて私にはないけど。 この命の最後のお願い聞いて欲しいと我儘になる。 積極的になれる。 お願いお願いと願いまくってキースさんを見る。 「……恋人になるなら、せめて、1ヶ月はいてください」 どことなくおーけーの返事がもらえてうれしくなる。 別に1日だけの恋人でもよかったけど。 うんうんと喜んで頷くとキースさんが困ったようにしながらも笑みを見せてくれる。 かっこいい彼氏ゲット! 人生最後によくやった私!
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