条件

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声をかけてみたいようにも思って近づくと、頬に雫が当たった。 なにかと思って空を見ると空はいつの間にか分厚い雲に被われていて、あたりも薄暗い闇になっていた。 気がついたときには土砂降り。 2人の子供は手を繋いで走って雨から逃げる。 雷も鳴ってきゃあきゃあ言いながら子供たちは木の幹にあいた子供なら入れるというような洞の中へと逃げ込んだ。 びしょ濡れになってしまっている。 ぶるぶる震えながら身を寄せあっている2人を見てから、晴れろーと空に向かって言ってみた。 分厚い雷雲は散っていく。 それでも薄い黒い雲がまだ雨を降らせる。 天気雨のよう。 そうじゃなくて雨あがれーと空に向かって言ってみた。 雨はあがった。 都合のいい夢である。 これで大丈夫だよーと子供たちのほうを見ると、子供たちはいつの間にかもう洞から出ていて、水溜まりのある道を走っていく。 近くて遠くに立派なお城のような建物が見えた。 そっちに向かっているようだ。 「クリスティア、水溜まり!」 少年は少女の名前をそう呼んだ。 少女は少年の手を掴んで、大きくジャンプして水溜まりを飛び越えようとした。 でも少女には飛び越えられる水溜まりの大きさでもなかったみたいで、見事に水溜まりの中に飛び込んでいった。 どろどろのびしょびしょになった少女は、きょとんとした顔で少年を見る。 少年はそれを見て笑った。 笑われてから少女は恥ずかしくなったみたいで赤くなって怒った。 「リアムっ!笑わないでっ!」 「ごめんごめん」 少年は軽く謝りながら、少女の頬についた泥を服の袖で拭う。 子供のくせにらぶらぶでいちゃいちゃだ。 どこかうらやましくもなって、邪魔をするわけにもいかないかなと思って、声をかけることはできなかった。 2人の子供は仲良く手を繋いでお城へと向かっていく。 見えなくなるまで見送っていた。 そんな夢をみたことは、ぼーっとした寝起きの頭では覚えていたけど、気がつくと忘れているものである。 朝の支度を整えて、メイドさんにごはんを持ってきてもらう。 まだかなまだかなと待っていると、ごはんじゃなくてキースさんがきた。 「おはようございます、エレナ様。昨晩はよく眠れましたか?」 なんて朝からどこか爽やかな好青年だ。 朝の光がないから朝って感じもしないのだけど。 キースさんはこのためにきたといったように、私のごはんをその魔法で出してくれる。 おいしそうなにおいもあるモーニングセット。 「おはようございます。……恋人になってくれるならエレナって呼んでください」 「……エレナ」 どこか恥ずかしそうに目を逸らして呼んでくれた。 そのかわいいのはツボる。 呼んでくれてうれしくて私はご機嫌。 「キースさんの名前は、えっと…」 「リアムですよ」 言われて、夢でみたものを思い出した。 少女が呼んだ少年の名前。 偶然なのか、私が無意識にそういう設定にしたのか謎だ。 でもなぜか呼びたくなくなった。 私はあの少女ではないから。 「キースさん、て、呼んでいてもいいですよね?」 聞いておきながら、なんだそれはというものを言ってしまうと、キースさんは不思議そうに頷いた。 「キースさんの名前、3つありましたよね?あれ、どういう意味なんですか?」 「リアムは私個人の名前で、キースとラッドは家の名前です。私はキースとラッドの家の子供という意味になります。私が家を継ぐときにはどちらの家を継ぐかで1つになります。今のところはラッド家ではなくキース家となっているので、私の名前も本当はリアム・キースとだけ名乗ってもいいのです。家督を継ぐことになっている者は元から1つの家の名前しか名乗ることもありません」 なんだか細かい法則のようなものがあるようだ。 というか。 「もしかしてキースさんってお坊ちゃんですか?」 家督とかいってたし。 「この国の重臣となる者を祖父に持ちます。ただ私は次男となるので家とはあまり関係がないとも言えます。それでも城内で寝起きをしているので、普段の服装はこのように国に従事する者を示す制服ばかり着ています」 お坊ちゃんだ。 そしてそれは制服であっていたらしい。 いわゆる高貴な人? そこまで思って、お城に向かって手を繋いで走る2人の子供の姿を思い出す。 あの少女は…もしかしたら…。 私、会ったこともないはずなのだけど。 なんて思って、手元のスープを見るとそこに人影が映る。 ……ある。会ったこと。 この姿がそれだ。 王女様。
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