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妙な夢をみたせいで、それがどこか重ねってしまって、浮かれたものは一気になくなった。
現実をみたようにも思う。
浮かれてもいいけど、それ、別に恋愛でもなんでもない、ただのちょっと親しい間柄ってやつだよ、とでもいうような。
親しくなれるのか謎なくらいのものだ。
王女様のふりをすれば、もしかしたら親しくなれるのかもしれないけど、私、王女様じゃない。
というか、王女様ならすでにキースさんと親しい。
子供の頃からの仲だ、きっと。
あれは現実のように思う。
それにちょっと沈んでしまっている自分は失恋したかのようだ。
失恋といえるのかもわからない。
キースさんが研究室のほうへいってくると言って私の部屋を出て、ぼーっと鏡のように映る窓の中の自分を見ていると時間はいつの間にか過ぎていて、失礼しますとキースさんがまた戻ってきて。
もうお昼かなと時計を見ると、まだお昼の時間でもなかった。
「エレナ、部屋にずっといるだけなのも退屈でしょう?城内を少し歩きませんか?ご案内します」
私を誘いにきてくれたらしい。
恋人になってくれているのか、私がここに留まってしまったからかはわからないけど、私を気にかけてくれているのはわかる。
なにか余計なものをキースさんにつけてしまったと現実も見えて後悔する。
これはもう1ヶ月とは言わず、さっさと妊娠させてもらって挑戦したほうがいい。
私、すっごく迷惑な人だ。
「お仕事、まだあるんじゃないですか?気にせずにいってきてください」
この場はとりあえずと、キースさんを帰そうとした。
「あなたにかまっているだけでも私には仕事となるので、こちらのほうこそ気にせずに」
そういう言い回しをされるとなるほどと納得した。
私はキースさんが召喚した人。
私に尽くすのがキースさんのお仕事。
私が勝手につけ加えたものに、私が勝手に引きずられているだけ。
……溜息出そうだから自覚させないでほしい。
キースさんに連れられてお城の中を歩いてみた。
転送魔法陣とかあるし、どこをどう動いているのかも私にはわからない。
1人で歩けと言われても迷子になる自信がある。
ということで、お城がどんな姿で、どんな道があるのか知りたくなって、キースさんに図書室へと案内してもらった。
ものすっごく広かった。
これ、1つの建物だよね?という広さにたくさんの蔵書。
ここは国立図書館という名前でいいと思う。
「言語は通じるようになっていますが、さすがに文字は読めないですよね?」
キースさんは手近にあった本を開いて見せてくれた。
横書きにアラビア文字のようなものが並んでいる。
アラビア文字をカクカクさせたような文字かもしれない。
「読めないです。もしかして言葉もどこか勝手に翻訳したようなもので会話してるんですか?これ」
「だと思います。召喚前にそのあたりの設定をしています。文字も互いに読めるように設定できるのですが、召喚後の再設定はほぼ不可能です。私のミスです。すみません」
「お手紙を書くことはないと思うので大丈夫だと思います」
「いえ。手紙なら読めます。私が読むことは簡単です。なので書いていただいても」
どこか手紙欲しいとでも言ってくれるように言ってくれる。
中学生の文通のような手紙を妄想して、次にはチャットのような会話をしているメールを妄想して。
ないな、としか思えない。
私も手紙なんてずいぶん書いていない。
どんな内容を書けばいいのかも浮かばない。
書いても社外や社内に向けた文書ばかり。
しかもキーボードで。
連絡事項とかそういうもの。
書くこともないし書かない。
ふるふると私は頭を横に振る。
「絵や図なら見れますよね?」
「なにか描いてみますか?」
「じゃなくてっ。お城がどんなものか見たいってお話ですっ」
なにか私がキースさんにプレゼントするものをつくろうとしている話になりそうであせる。
そんな思い出は残すつもりもない。
受精卵はいただく。
少しの可能性のため。
それもベルソレイユにあげるから、私とキースさんの間に残るものはなにもない。
それでいい。
それがいい。
やっぱり1ヶ月は長い。
1週間でもらえるように交渉するべきかもしれない。
キースさんの精子。
恋人になってくださいだなんて、余計なものを出すんじゃなかった。
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