死と夢

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眠ると夢をみる。 毎晩必ず。 そこには王女様がいて、キースさんもだいたいいつも出てくる。 小さい頃から順番にという夢でもなく、昨日は14才くらいの王女様だったのに今日は9才くらいの王女様とか。 なんでもない王女様の日常。 真っ暗な空の日常。 朝はぼんやりと夢の中のお話を頭に浮かべながら、メイドさんにお世話をされて顔を洗う。 用意していた顔を拭くタオルがないとなったらメイドさんも魔法で簡単にタオルを出してくれる。 私も魔法を使ってみたいように思うのに、メイドさんに魔法の使い方を聞いてみてもちんぷんかんぷん。 私に魔法を使う素質はまったくない。 いじけて、近くにあったナフキンで鶴を折って遊んでいたらいつものようにキースさんがきた。 「おはようございます、エレナ」 変わらず朝からさわやかな人だ。 寝ぼけた顔を見てみたいくらい。 「エレナ様、お花。お花がいいです」 メイドさんはいつもならキースさんがくるとささっといなくなるのに、私が折る折り紙にうれしそうにリクエストをくれる。 お花って確かこんな感じ…と折って百合をつくる。 完成した折り紙をメイドさんにあげると喜んでくれた。 そんなものでいいならいくらでもあげる。 「すごいです。エレナ様。ありがとうございます。大切にします」 「エレナ様、私も。これいただいてもかまいませんか?」 最初に折った鶴を手元にもう1人のメイドさんが聞いてくれる。 「おはようございます、キースさん。 いいですよ。もっと色のある綺麗な紙で作ったほうがよくないですか?」 これ、ただの食事用の白ナフキンだし。 ぱりっとしていないから、鶴は広げるとへにょっとなってしまう。 キースさんに挨拶をしてから提案してみると、こういう紙?とメイドさんがいろんな紙を魔法で出してくれる。 魔法便利。 そしてなぜか少しずつこの世界に馴染んでしまっている。 いずれ死ぬのに。 よくないと思いつつ、挨拶をされたら挨拶を返して、してもらったらお礼をしてと普通のことをしていたら馴染んでいくのは当然かもしれない。 異世界だけど同じ人間だから。 しばらくキースさんは放置でメイドさんたちと折り紙で遊んだ。 紙と言えるのかよくわからないセロハンみたいなものを折ってみたり、銀紙のようなものを折ってみたり。 「あの……。エレナ?食事を…」 おずおずとキースさんに声をかけられて、メイドさんたちは今気がついたかのように慌てた様子で折り紙を手にして背中に隠す。 なにか悪いことをして怒られる子供かのように。 「君たちはさがってくれ」 キースさんはやりにくいといった様子でメイドさんたちに言う。 「またあとで遊んでくださいね」 私がメイドさんたちにそう声をかけると、メイドさんたちは笑顔を見せて頷いて、失礼しますと部屋を出ていく。 いい人たちである。 今ならどのドレスが似合うか聞けそうである。 王女様ならこれかなというのは夢の中の王女様の姿から浮かぶけど。 自分からわざわざ王女様のふりをすることはない。 私は王女様ではない。
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