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「なにか…私よりもあの方たちとのほうが仲良くなられてます…よね?」
キースさんは私の食事を机に出してくれながら、なにか言ってくれて、私がぎくっとなる。
その理由を問われたらどう答えようか思考を巡らせる。
理由は簡単だ。
私がキースさんにお願いした恋人というものをやめようとしているから。
勝手につけくわえて、勝手にやめようとして、勝手に気まずくなってるだけ。
キースさんはそんなこと何一つ気にしていないかもしれない。
はっきり言ってどうでもいいかもしれない。
私が1人で勝手に距離をとろうとしてるだけ。
せめて初日に戻りたい。
自分をぶん殴りたい。
「同性なので」
ということにしておいた。
同性だから恋愛的なものもなく仲良くなれる。
それは絶対にあるから。
「……そうですか。今日の食事はエレナの世界から召喚してみました」
キースさんはできたといったように振り返って、机の上に並ぶものを見せてくれる。
いつもの朝ごはんとなにも変わらないように思う。
「魔法で創る食事ならメイドでも出せます。私が食事の時間にエレナのところへ寄らせていただくのは元々このためですから」
「でもこれ、盗んでる…んですよね?」
私は恐る恐る椅子に座って、並べられた食事を見る。
パン1つでいいかもしれない。
サラダやコーヒーや卵料理やハムまである。
「ちゃんと場所は選んでいますよ。これはホテルのモーニングビュッフェの1部なので盗まれたと気がつけるのかもわかりません。冷めないうちにどうぞ」
「いただきます。…キースさんも食べます?」
本物のごはん。
「私は先にいただいてきていますから」
さらっと返されて、そうだよねとも思って、恐る恐る食べてみる。
魔法じゃないごはん。
おいしい。
こんなに違うものだったかなというくらいおいしい。
ぱくぱく食べてしまう。
ちらっとキースさんを見ると、私のおかわりのコーヒーを注いでくれていた。
「1口。食べましょう?あーん」
このおいしさをどうしてもわかってほしくなって、パンをちぎってキースさんに向けた。
本物がわからなくなるってキースさんも言っていたし。
本物食べたら、もしかしたら魔法のごはんもおいしくなるかもしれない。
キースさんは少し赤くなって、私が出したものをぱくっと食べてくれた。
もぐもぐしてるのをじーっと見る。
「おいしい?おいしいですよね?」
「……味、わからなくなりそうです」
「なんでっ?おいしいですよ、これっ。はい、もう一口。卵も食べてみて?」
パンに卵をのせて、もう1回あーんと食べさせてみた。
ぱくっと食べてもぐもぐしてくれる。
目を閉じてもぐもぐしていたと思ったら、その猫のような目が私を見る。
「そんなに観察するように見ないでください。食べさせられるのはなにか恥ずかしいでしょう!?はい。エレナ。あーん」
仕返しのようにサラダを口元へ寄せられた。
恥ずかしくて味がわからないだったらしい。
「あーん」
私はキースさんが出してくれたサラダをぱくっ。
恥ずかしいけどうれしい。
もぐもぐしながらキースさんを見て、大丈夫とみせる。
「あーん」
もう1回と口をぱくぱくさせてねだると、キースさんは食べさせてくれる。
うまうま。
いちゃいちゃしてるみたいで気分もハッピー…って、おい、私っ。
……距離をとらなければ。
都合よく甘えてしまう。
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