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キースさんにはしばらく呆然としたように見られて。
なにか恥ずかしくなって私から目を逸らしてしまう。
いえ、今でもじゅうぶん好きです。はい。
なんて正直に言いたくもなる。
願望としては、ごろにゃんごろにゃんとキースさんに体をすりすりしていたい。
きゅっと抱きついて頬ずりしまくりたい。
……完全に王女様とキースさんの関係には私にはなれそうにない。
「……そう、ですね。まずはデートでもしましょう」
キースさんは無理に私にキスしてくることなく、そういうことにしてくれた。
……してくれてもいいんです。
ものすごく恥ずかしいから今更言えない。
そんな強引な人でもない。
キースさんはしない。
ということで気を取り直してデートに連れていってもらえることになった。
いつもの城内を歩くことがデートじゃないのかと言われたら、それもデートだと思う。
だってお城の外は真っ暗な闇すぎて、私にはなんの景色も見えないし、いく意味もない。
そして今回のデートもお城の中。
中…のはずなのだけど、目の前に広がる景色は壮大な渓谷。
その景色だけで空気おいしいと思えるような、自然が溢れる場所。
遠くの山の尾根は白くなってる。
うわーとその景色に見とれる。
「ここは以前にきたヒーリングルームですよ。ヒーリングルームが映す景色は国内の名所となっているので、こういうところも映してくれます」
キースさんはここがどこでどういった場所なのか説明をくれる。
景色なだけじゃなくてその中を歩ける。
自然の中の遊歩道をお散歩。
キースさんについていくと、ながーい吊り橋に出た。
恐る恐る吊り橋の下を見ると、どこまで深いのという谷底。
川はある。
はるか遠くに。
この吊り橋、転送魔法陣でいいじゃないかと見てしまう。
「いきましょう」
キースさんは手を差し出してくる。
癖のようにぺちっと手を乗せてる私がいる。
乗せてから気がついた。
「ま、まさか、その吊り橋渡るつもりですか!?」
「大丈夫ですよ。落ちても死ねません。こういうアトラクションと思えば楽しめませんか?」
無理っ。
高いの無理っ。
なに、これっ?
さっきキスとめた仕返しですかっ!?
キースさんに手を引っ張られて、私の足はその吊り橋へと進む。
揺れることもない橋ならなにも怖くないのに揺れる。
下を見てしまうと足がぶるぶる震えてすくんでしまう。
キースさんの手をぎゅっと握って、落ちるときは道連れと思っていても、こわすぎて足が進まない。
吊り橋の端はまだまだ遠い。
よくこんなところを平気で歩けるなとキースさんを見てしまう。
1歩進むごとに私は涙目。
ふえぇーと泣き出しそうだ。
風を感じる。
気持ちいいと思えるものでもなく、橋を揺らさないでー!と叫びたくなるような風。
「も、もうやだ。ごめんなさい。やだーっ!」
ごめんなさいを言いまくって、とうとう立てなくなって座り込んだ。
私が座り込むと、なんの意地悪かキースさんは橋をわざと揺らしてくれて、私は悲鳴をあげまくって、キースさんをとめるように、その足に抱きつく。
やだやだと言いまくって泣いた。
キースさんは笑う。
私は泣いているのに笑いやがる。
ひどいいじめっこだ。
「大丈夫だって言ってるのに。橋があるから余計にこわいのかもしれませんね?飛び降りてみます?」
この悪魔はなんなのか。
絶対やだと私はキースさんにしがみついて、ぶるぶる頭を横に振りまくる。
「だから怖くないですって。いくら魔法でも高低差や広さは元の空間の広さや高さと同じなので。実際はここまで高くもないんです。だまし絵みたいなものですよ」
そう言われてもこわいものはこわいーっ!
絶対に離さないくらいにぎっちりキースさんの足に抱きつく。
こんなデートはなしだ。
腕じゃなくて足に抱きついてるなんて絶対におかしいし!
なんて思っていたら、私の体にキースさんの腕が回ってきた。
引き剥がされそうなことにやだやだと腰に抱きつく。
見た目は細いのに、けっこうがっしりしていらっしゃる。
「エレナは高所恐怖症ですか?だまし絵のトリック、知ってしまえば楽ですよ」
キースさんの手は私を捕まえて、なにをされるのかと思うと抱き上げられた。
こんな不安定なところで抱き上げられるなんて更に恐怖でしかない。
恐怖ばかりなのに、キースさんは吊り橋から飛び降りようとしてくれていて。
やだやだー!と私はキースさんにしがみつく。
ひょいっと飛んだ。
飛んだはずだ。
だけど落下したという感じはまったくなくて、恐る恐るまわりを見ると谷底の上に浮いていた。
「ほら、ここが地面になります。樹木があるぶん下に容量を持ってこれなかったのでしょう」
なんて言いながらキースさんはそこに私をおろしてくれるけど。
足はがくがくして立てない。
ガラス張りの上に立って下が透けているようで。
ぼろぼろ泣きながら、やだやだとキースさんの足にまた抱きついた。
こんなリアルすぎるだまし絵なんてだまし絵にならない。
「……ずっとここにいます?」
なんの意地悪だというようなことを言ってくれて、私はがぶっとキースさんの足に噛みついた。
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