死と夢

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簡単なことならやってみてもいいかなというくらいで口説かれてしまう人もいるかもしれない。 でもそこには誰かが困っているからやってみるという情が少なからずある。 情がなければなんで私がやらなきゃいけないの?と誰も口説かれたりしない。 男女の関係が人間のすべてじゃねぇやいとグレイスさんにケンカ売りそうだから言わないでおく。 少しでも私の存在を大切に思ってくれたなら、私が死んで泣いてくれるなら、簡単に消えてしまっても惜しくないかなとも思える。 生贄として出されるようなものよりいい。 私が在ったこと。 キースさんならきっと覚えてくれている。 「王様に謁見はまだですか?キース様。召喚した相手からの承諾はされているようなので謁見を賜ったほうがよろしいのでは?」 グレイスさんはなにか手順のようなものを話す。 王様に会えるらしい。 「王の体調が優れない。無理に謁見を賜るわけにはいかない」 「だけでもなくて、まだ妊娠させてないからでしょう?すべての手筈が整って最後に謁見ですから」 グレイスさんはさらっと言ってキースさんが言葉に詰まる。 なんか、こいつ、偉そうだ。 言葉は丁寧にも思えるけど偉そうだ。 「最後の思い出に、1番いいものをくれてやらないととプレッシャーもかかりますからね?しかも王女に似た女を相手に。キース様には俺が思うよりも大きな重圧が…」 なにかべらべらと話し続けてくれて、いい加減私がキレた。 げしっとグレイスさんの足を蹴っていた。 思い切り。 さすがに痛かったらしく言葉はとまって、グレイスさんは脛をおさえて痛がる。 「てめっ…」 なんて、どこか荒々しく怒ったようにこっちを見てくる。 「誰に向かって口きいてるの?あんたの世界を慈悲で命をかけて救ってやろうと思ってる救世主様、だよね?私。私に文句あるならあんたがベルソレイユに近づけば?ベルソレイユをそのお得意の口で口説き落として目覚めさせてよ。目覚めさせることができたなら殴り返すなり好きにすればいい」 私も負けずに言い返す。 グレイスさんは悔しそうにしながらもさすがに黙った。 中指立ててやりたい気分だ。 いい気になるな。 たとえ私が失敗しても、それはここの研究成果の1つとなる。 というか。 「私、別にえっちして孕みたいなんて言ってない」 いや、キースさんには言ったけど。 グレイスさんに言ってない。 妊娠させる方法はこの世界ではそれだけじゃない。 もっと簡単にできる。 「それだけキース様を気に入ってるくせによく言う。正直に素直にヤリたいって言えばどうですかね?ま、ヤって妊娠したところでそちらの救世主様にはその子供は絶対に産めないものですけどね?たとえ生き残れても産めませんがね?子供と記憶を消されて元の世界に送り返されるだけですから」 グレイスさんは頬をひくつかせて、私にケンカ越し。 成功したらそんな結末があるらしい。 だったらよけいに。 成功したい。 私には帰る場所はもうない、から。 成功したなら、誰が成功させたのか、みんなの記憶も消してくれたなら最高だ。 あなたが、悲しまないように。
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