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種をいただけるのはまだかなまだかなと待っているのに、なかなか種をいただけない。
グレイスさんとのケンカのようなものの中で、直接種をつけなくてもいいというのはキースさんも聞いていたはずなのに、まだそれを悩んでくれているのかもしれない。
そんなキースさんだから好きでもあるけども。
私も早く王様と面会してベルソレイユに挑戦したい。
などということを思いながら半月も過ぎてしまった。
いい加減、夢の中の王女様の姿を見るのも慣れた。
うたた寝の中、王女様は私が怖がったあの渓谷の橋ではない場所を楽しそうに走っていて。
空を飛んでるーなんて言ってキースさんに見てもらおうとしていた。
キースさんが呆れたようにその景色をかえてしまう。
王女様はさっきのほうがおもしろいと言ってキースさんに怒る。
キースさんは怒られながらも渓谷にもいた鳥を指にとまらせて可愛がって、王女様は聞けとキースさんに絡む。
2人が仲良くて。
私にはつまらない夢。
夢ならもう少し、私の隙間がほしい。
私がいない。
夢なのに。
私の夢じゃない。
なんて思って、いつものようにしょんぼりとその光景を見ていた。
王女様に絡まれていたキースさんの視線は私を見た。
キースさんの目には私はなにに見えているのか。
近寄ってきたと思ったら頭を撫でられて、その笑顔に甘えた気持ちが膨らむ。
目を逸らすように目を閉じた。
次に目を開けた時には眩しい光。
目を擦りながら体を起こそうとしたら、私に差し出されていた手に気がついた。
少年ではない大人のキースさんがそこにいた。
目をぱちくりさせながら、まわりを見る。
私の部屋。
ソファーでうたた寝してしまったらしい。
手元には絵本。
暇だから文字を覚えようとしてみて、こんなものを読んでいる。
読めない。
全部同じ文字に見えて、違いがわからなくて読めない。
そして言語も違うから、それ、どういう意味?というものになる。
絵を見てなんとなく理解するだけにしかならない。
「うたた寝していたみたいですよ。夜、あまり眠れていませんか?」
キースさんは私の手をとって軽く起こしてくれる。
「……いつも夢をみてます」
「浅い眠りで夢をみるようですから、眠れていないのでしょうね。寝起きですが食事の時間です。食べられそうですか?」
頷くとキースさんは私のために本物のごはんを用意してくれる。
最近のごはんはずっとこれかもしれない。
魔法のごはんでもいいのに。
おいしいから私はキースさんに食べてもらいたくなって、あーんと食べさせるよりもキースさんも私と一緒に食べてくれるようになった。
ここが私の世界なら、私が作ったものをキースさんに食べてもらいたいのに。
ここにはなにかを作る食料がまずない。
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