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「エレナのことは……、随分前から見つけてはいたんです…。王女と…クリスティアと同じ因子を持つ異世界の人間。姿が似ているのは因子が同じだから…。まったく同じでも意味はない。クリスティアは消えているから。どこまでの差異でベルソレイユを目覚めさせられるのか定かでもない。だから、エレナを、黒い髪に焦げ茶色の瞳のエレナを、俺は見つけていました」
ぽつり、ぽつりと私の頭を抱いたまま、キースさんは話してくれる。
本当の私の姿を知っている。
「けれど、その実験をすることに俺には抵抗があって。ジェイが見つけられないなら、エレナが結婚して子供も産んでおばあさんになってからでもいいんじゃないかと思って召喚しなかったんです」
それを言われて、なぜかどうしてか、何かが恥ずかしくなった。
落ち着いた。
かなり落ち着いたから、その先はもう聞きたくないようにも思う。
「でもエレナは恋人ができても結婚する様子もなくて…働いてばかりで…」
あ…、う…、うぅ…。
や、やめて?
社畜の私をよく知ってるかのように言わないで?
……きっと見られていた。
私の知らないところで。
うぎゃぁぁぁぁああああと喚きたくなるほど恥ずかしい。
その現実を突きつけないでほしい。
「……あの日、数日前に覗いてみたエレナの様子がおかしかったので、心配して見たら案の定くらいで…。……すぐに助けようとはしたんです。こちらに召喚してしまえば助けられるのだから。でも術式を展開している間に掴めるはずのエレナの腕が掴めなくなって……。咄嗟に、俺が、クリスティアの因子を集めて創っていたその体に、エレナを降ろしました」
キースさんの腕はぎゅうっと私の頭を体を包むように抱く。
私がここにいる理由。
この体の理由。
「降魔術、です。死者を器に入れる魔法。初めて使ったので失敗したかと思ったのに、その腕はもがき苦しむように動き出して……。
俺が……、もう少し早く召喚していれば、エレナは死んでいなかった。だけど、エレナ、あなたはここに今、生きています。その器は魔法でできているものなので、魔法で創られた食事をとらなければ維持できないだけです。もう少し、……ゆっくり生きてからでも…いいはずです」
私の頭に雫が感じられた。
私が死んで泣いてくれる人がここにいる。
そのキースさんの優しさ、すごく好き。
私もぎゅうっとキースさんに抱きつく。
自分の死んだときのお話を聞いているはずなのだけど。
いくらかは予想できていたことでもある。
衝撃的だったのは生前の私のことを知られていたことだけで、他は納得という形で受け止めることもできた。
落ち着いてる。
大好き、大好きとキースさんに抱きついているくらい落ち着いている。
私の神様。
私のかわいい人。
あなたがくれた涙のぶんだけ、私、がんばる!
だから。
「種、まだもらえないですか?挑戦するためには必要なんです。こう、魔法で私の中に入れて?」
改めてお願いしてみた。
キースさんが出さなくてもなんか魔法でできるんじゃないかなとも思えてきた。
死んだ人蘇るくらいだし。
というか、その魔法があれば王女様も生き返るのでは?なんて思ってもみる。
器は今は私が使ってるからあげられない。
私が消えたあと、またキースさんに創ってもらって…。
「エレナ…」
「なにー?」
らぶらぶな気持ちで軽く応えたら、絞め殺されそうなほど抱きつかれて悲鳴をあげそうになった。
く、くるし…っ。
死ぬっ。死ぬっ。
「ゆっくり、って、俺、言ってるつもりなんですがっ!?」
なんか怒ってる。
「だ、だって……、んっ、ぁ……っ。あぁっ…」
ぎゅうぅっと締められて、キースさんに抱きついて悶える。
苦しい…。
いっちゃう。天国、いっちゃう。
「あと、種つけるなら!エレナとセックスしますから!あなたの体は俺のものです!」
いやん、それ、ダッチワイフみたいなー?
って、冗談ならないしっ!
死ぬってばーっ!
ギブギブとキースさんの背中を叩きまくって、ようやく離してもらえて、ぜぇぜぇ。
鬼か、こいつは。
もう少し女の扱い方を覚えさせないと。
ぜぇぜぇしてる私の頬にはキースさんの手がふれる。
優しい手。
わかってるくせに、さっきの絞め殺す腕はなんだよと不満で顔をあげてキースさんの顔を見る。
その目は光を見ていないからか猫の目でもない。
召喚されて初めて見た瞳。
本当のキースさんの瞳。
「俺が創ったんだから、俺のもの…でもいいでしょう?」
キースさんの指は私の唇にふれて、私の唇を撫でる。
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